日本人が書かなかった日本

誤解と礼賛の450年

The Idea of Japan

イアン・リトルウッド / イースト・プレス / 98/03/21

★★★

資料がたくさん入っているので、探究の出発点としてはよいか

 日本という国が西洋からどのように見られてきたかを、西洋人が書き残した文献をもとに紹介している。古くは16世紀のイエズス会の宣教師、新しくは1990年代の小説(『ライジング・サン』など)まで。しかしやはり、19世紀末のヨーロッパを襲ったエキゾチックな日本の衝撃と、太平洋戦争時の敵国扱いと、戦後のエコノミック・アニマルが話題として多い。

 基本的に、この著者がこれらの豊富なエピソードを通して言いたいことは、偏見は相手をよく知らないことから生じる(日本人も普通の人間である)、日本がどのように見られるかは時代によって大きく変わる(それはつまり、西洋人の側の事情によるところが大きい)、といったことなのだが、取り上げるエピソードがきわめて奇怪なものばかりなので、全体を読み終えると日本異質論を宣伝しているようにしか見えない。また、「西洋人が日本人をこう見ていた」とは言うが、「しかし実際の日本人はこうだった」という方面の記述は意図的に省いているようだ。これは潔い立場ではあるかもしれない。

 まあしかし、各種の日本異質論をたくさん読めるのはとてもありがたいことで、これまでそれほど意識していなかった事柄をいくつか思い出すことができた。

  1. 19世紀後半から20世紀初頭にかけての、「美しい国」としてのイメージが非常に強烈だったこと。もちろん当時の日本のアートは大陸のアートに大きな影響を与えたわけだけれども、具体的にどのような人が、この種のイメージをどのように西洋に持ち帰ったのかを知ることができた。それとともに、西洋人による日本の工芸品などの買い漁りがひどい状態だったということを改めて確認。
  2. 新渡戸稲造の影響力。いまさらながら、この人の一生は非常に興味深く、日露戦争の西洋における評価の形成に大きく貢献した、はずである。ここのところはもうちょっとリサーチしたい。
  3. みだらな民族としての日本人。現在では、この地位はタイ人に奪われたようだけど、100年ほど前までは、日本こそが性のパラダイスであった。特にイギリスでは性に厳格な時代がやってきていたことで(ちなみに著者はイギリス人)、日本を訪れた英国紳士がその日記に記していないいろんなお楽しみがたぶんあったであろう、と推測される。
  4. 「エンデュランス」というTV番組の話が何度か出てくるけど、これはたぶん少し前にはやったガマン大会ものがイギリスに輸出されたものだろう。日本製アニメーションの話はそれほど出てこないが、マンガの性描写についての言及はある。
  5. 知らなかったけれども、『ライジング・サン』ならぬ『シークレット・サン』というサスペンス小説があるのだそうだ。元ワシントン・ポスト東京特派員のフレッド・ハイアットという人が書いたもので、なんと日本は小型原子爆弾の開発に成功しており、これを欧米に輸出する電気製品に埋め込む計画を立てていた、という筋書きらしい。

 ちなみに長野でオリンピックが開催されていたころ、アメリカではクリントン大統領のセックスがらみのスキャンダルと、イラクを爆撃すべきかどうかという話が盛り上がっていたが、CNNで取り上げられた日本関連の話題といえば、長野の温泉に猿が入っているという映像ばかりだった。そう考えると、映画の『ライジング・サン』は日本で見ればお笑いでしかなかったけど、欧米人はかなり本気で見てるはずなので恐ろしい(しかし官僚のノーパン・シャブシャブを使った接待が広く取り上げられてしまったので、映画の中の「女体盛り」は嘘だと主張するのはかなり難しくなったか?)。

1998/3/25

 追記。『セクシュアリティの帝国』では、大英帝国の植民地支配における英国人と現地人の性的接触が扱われているが、ここに日本人の話題もちょくちょく出てくる。日本人売春婦はオーストラリアまでを含むアジア一帯に広く進出し、当時の西洋人たちに、その高いクオリティで強い印象を与えたようである。「からゆきさん」のテーマは実のところものすごく重要だということを再認識した。

1998/6/12

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