アメリカ人はなぜメディアを信用しないのか

拝金主義と無責任さが渦巻くアメリカ・ジャーナリズムの実態

Breaking the News: How the Media Undermine American Democracy

ジェイムズ・ファローズ / はまの出版 / 98/02/27

★★★★

改めて日本とのギャップに驚く

 アメリカのテレビ中心のジャーナリズムが、国民の間に政治不信を作り出していると批判する書。また、すべての事柄を政治に結び付けて論じる風潮が、問題の本質を見えなくさせている、と指摘する。

 問題は、この本で批判している番組のほとんどが、日本に持ってきたら第一級のニュース番組である、ということだ。CBSの60 Minutes、PBSのNews Hourなど、いずれも日本で見られる最良のニュース番組であり、しかも面白い。日本では(少なくとも私は)見ることができないが、CNNのCrossfireは「朝まで生テレビ」がそうであってしかるべき形の論争番組だし、ABCのThis Weekは、日曜の朝に竹村健一とか田原総一郎が司会をやっているような番組がそうであってしかるべき番組だ。ジム・レーラー、サム・ドナルドソン、コーキー・ロバーツ、ジョージ・ウィルなど、日本に持ってきたらすぐさまトップ・ジャーナリストとして位置付けられるだろう。そういうのを、この本は批判しているのである。頭が痛くなる。

 アメリカのメディアが、「タブロイド・ジャーナリズム」などという言葉で浅薄なジャーナリズムを批判するとき、よくHardcopyという番組を引き合いに出すが、これは(そんなに何度も見たわけではないが)日本に持ってきたら「ニュース・ステーション」ぐらいの位置付けになりかねない(これは少しおおげさか)。

 まあしかし、この本の著者が指摘していることには一理ある。まず、この本で取り上げられているような、アメリカのニュース番組が、エンタテインメントとして非常に優れているということは明らかだ。実際に面白い。ABCのThis Weekのパネルがどういうことを言うかは分かりきっているのに、それを彼らがどう言うかという興味が持続する。実際、サム・ドナルドソンもコーキー・ロバーツも頭悪そうだけど、別に彼らに明晰さを求めているわけではない。こういう姿勢が、ジャーナリズムを歪めている? たぶんそうだろう。

 ニュース番組が対立の姿勢を打ち出すことが多いおかげで、事態が白黒はっきりとしているかのように提示されてしまう。たぶんそうだろう。しかしこれなどは、私に言わせれば、ニュース番組に必ず二つの対立する立場の人を招待して、それぞれの立場をわかりやすい言葉で語ってもらうという、きわめて優れたアプローチだ。ゲストが対立すれば、争点がはっきりする。

 かならず政治に結び付けて論じる傾向。TVニュースの司会者たちが、政治しか論じることができないので、国内経済であれ国際関係であれ、必ずホワイトハウスと議会との間の対立に還元して語ってしまう。これが極端なのは(日本で見られるものでは)This Weekなんだけど、それ以外の番組についていえば、それほど極端だとは思えない。しかし、これにしても、さまざまな事柄を政治として論じることができるということ自体をうらやましく思うばかりだ。

 ホワイトハウス付きの記者のエリート意識。これはたしかに鼻につく。が、しかし、日本人の私としては、野次馬根性で、ホワイトハウス報道官とのやり取りを楽しんで見るだけだ。

 思うに、日本では、メディアやマス・ジャーナリズムが、この著者が望んでいるような姿であったことは一度もないため、そこへ回帰するという発想も出てくるはずがない。日本人はマスのメディアが、意義のあることをやっているとも、公正であるとも、まったく思っていない。新聞雑誌に対してさえそうなのだから、TVについてももちろんそうである。そういうわけで、この本を日本人が読んだ場合、ユートピア内部での内輪もめみたいな感じがして、どうにも落ち着かない気持ちになるのではないだろうか。

1998/3/27

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