Protect and Defend

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リチャード・ノース・パタースン / Knopf / 2000/12/01

★★★★★

とにかく分厚く、でかい

 リチャード・ノース・パターソンの2000年12月に出た最新刊。1992年の傑作『罪の段階』のあと、1995年に『Eyes of a Child』(『子供の眼』として2000年に訳本が出た)と『The Final Judgement』、1997年に『Silent Witness』、1998年に『No Safe Place』、1999年に『Dark Lady』が出版されている。本作では、『サイレント・スクリーン』に脇役として登場したジェイムズ・キルキャノンの弟で、『No Safe Place』の主人公として民主党の大統領指名選挙を闘ったKerry Kilcannonが大統領になっており、『罪の段階』では裁判官、『Eyes of a Child』では弁護人として脇役的な扱いを受け、『The Final Judgement』で主役となったCaroline Mastersが、前作で示唆されていたとおり連邦控訴院判事になっていて、Kerry Kilcannonによって連邦最高裁主任判事に指名される。つまり『サイレント・スクリーン』で種が播かれたリーガル・サスペンスと政治小説の2つの流れが、ここに来て再び合流したということができる。将来、『Dark Lady』は、行政職のオフィスの中で展開する政治小説を書くための習作だったとして位置づけられることになるかもしれない。

 政治的態度もスタイルも反対の極にあるのだが、主要登場人物がとんとん拍子に出世していくという点で、トム・クランシーのジャック・ライアン・シリーズ(『合衆国崩壊』など)を思い出した。いや、これは余計なことだった。

 本作では、『No Safe Place』と『The Final Judgement』のそれぞれで大きなテーマとなっていたpro-choiceとpro-lifeの立場の衝突を、連邦地裁から連邦最高裁までの司法の世界と、共和党が与党となっている上院を舞台にして真っ正面から取り上げている。Kerry KilcannonもCaroline Mastersも、それぞれの個人的経験から単純な党派的な見解は持っておらず、なんというか"compassionate pro-choice"とでも呼ぶべき、言ってみれば「安全」な位置にある。Caroline Mastersの裁判官助手を務めた経歴を持つ弁護人Sarah Dashが、pro-choiceの立場を徹底的に主張する役割を与えられており、pro-lifeの立場を主張するのは共和党の腹の黒い連中というわけで、全体としては強烈に民主党へのバイアスのかかった「共和党の陰謀」小説となっている。『No Safe Place』のときにも感じたのだが、リチャード・ノース・パターソンは筆が立つだけに、政治色の強い描写が多くなると少しばかり辟易する。本作でも、主人公格の2人を安全な位置に退避させておいて、兵隊に強烈な主張をさせるという配慮はかなり嫌らしい。

 とはいえ、リーガル・サスペンスと政治小説を合体させた巨大な織物としての本作が、著者渾身の力作であることは間違いない。特にこの人がリーガル・サスペンスの分野で1つのパターンを極めてしまい、どうしても政治小説の方向に転進しなくてはならないのだとしたら、これは『サイレント・スクリーン』はもちろんのこと、『No Safe Place』や『Dark Lady』よりもずっと完成度が高い作品だから大いに喜ぶべきことなのだろう。ただ、この政治小説の流れの中で、『罪の段階』からの数作のリーガル・サスペンスの魅力だった登場人物たちの陰影に富んだ造型が失われていることは残念でならない。もちろん著者は必死に、これらの人物たちに複雑さを持たせようと試みてはいるのだが、最終的な産物はジャック・ライアンとその周囲の善玉たちとそう変わらないという印象を受ける。思うに、これらの登場人物たちは権力を持ちすぎていて、『Silent Witness』のアントニー・ロードのような、もっともがき苦しんでいる人々の描写には通用していたテクニックがうまく働いていないのではないかと思う。

 なお、すでに述べたように民主党バイアスが強いものの、pro-life/pro-choiceの問題や、上院における連邦最高裁主任判事の承認委員会の働き方などに関するリサーチはかなり徹底して行っているようで、おっそろしくinformativeであるし、そこにドラマティックな仕掛けを埋め込む手腕は相変わらず素晴らしい。本そのものは肩が凝るほどでかく(550ページほど)、電車の中で立って読むのは難しい。

2001/6/21

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