権力

杉田敦 / 岩波書店 / 2000/06/21

★★★

さあどうなんでしょうか

 『デモクラシーの論じ方』が面白かったので、同じ著者のものを読んでみた。本書は岩波書店の「思考のフロンティア」シリーズに入っている権力論。素朴なマルクス主義的階層論に対する批判とそれ以降の展開を、フランスのポスト・マルクス主義を中心として紹介する。とりあえずフーコーがベースラインに置かれている。

 『デモクラシーの論じ方』を読んで受けた、分類整理のうまい人という印象は当たっていた。ただ、理論的な枠組みを概観することに焦点が当てられている薄い本なので仕方がないことなのだが、現実の例への立ち返りという点では不満を感じた。たとえば共和主義について論じている箇所で(64ページ)、いまの日本で行われている憲法見直しの議論を牽制する意味合いで、共和主義の限界をいろいろと指摘している部分はどうしてもアドホックに見える。それは珍しいことではないけれども、『デモクラシーの論じ方』が現実的な例のみを使って構築されたパワフルな本だっただけに、本書にその症状が見られたのは意外だった。でも、現実への立ち返りを最初から放棄しているようなものが多いこの手のジャンルの本の中では、ずいぶんまともな方ではあったとは言っておこう。

 たまたま、「論壇」の世界ではおそらく反対の陣営に属すると思われる岡田英弘の『歴史とはなにか』の後に読んだのだが、ともに共和制に対する理論的な批判をしたがっているのが面白かった。

 これは好みの問題ではあるけれども、この類の事柄を語るときには、生物学の進化論、つまり行動生態学の人間への適用を考慮に入れるのが本道だとは思う。マルクス主義の「素朴な唯物論」を克服する必要に迫られたという事情はあっただろうけれども、もう21世紀なんだし、生物学もそれほど素朴ではなくなりつつある。

 なお、笑えたのは「あとがき」の次の箇所(109ページ)

本書のための最初のメモを、法政大学大学院に設置された社会人のための政策研究プログラム(夜間)で読むことができた。その結果、すべての権力が主権に由来するなどと信じているのは、今では一部の研究者だけであり、企業や自治体など具体的な権力空間に身を置いた経験を持つ人々にとっては、権力が下からもくることは自明であるとわかったので、その点については、くだくだしく論じないことにした。

 この点に限らず、おそらく本書の多くの部分が、普通の人にとっては自明である。現実の例への言及が適切に行われれば、『デモクラシーの論じ方』と同じほど自明だということが判明するだろうと思う。つまり、この本の、思想史の部分を除いた思想の部分は、フランス人の固有名詞を1つも使わなくても、現代の普通の日本人が「ああ、それね」と思い当たるような形で書けるはずだ。

2001/6/28

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