日銀不況

停滞の真因はデフレ政策だ

森永卓郎 / 東洋経済新報社 / 2001/07/05

★★★★

構造改革批判

 本書は、小泉内閣(『小泉革命』の項を参照)の成立を受けて、急いで書かれたもののようだ。「構造改革なくして景気回復なし」と唱える小泉純一郎が国民の支持を受けていることへの危機感が背後にある。なお、森永卓郎名義ではあるが、第3章「構造問題説の犯罪性」は野口旭、第4章「恐慌は繰り返す? 大恐慌と一〇年不況」は経済社会総合研究所の堀雅博という人が執筆している。

 基本的な主張は2つ。十分な金融緩和を行わない日銀に対する批判と、構造改革を行えば景気が回復するという論理に対する批判である。前者はインフレ政策をとるべきだという主張であるが、後者は「サプライ・サイド経済学」とか「貿易戦争」などのトピックについて行われたのと似た「論争」であり、この読書メモで取り上げている野口旭の『間違いだらけの経済論』『経済対立は誰が起こすのか』は、どちらもそのタイプの論争書だった。

 ちょっとばかし景気が上向いた1999年〜2000年にかけて、史上最高の利益を稼ぎ出した企業がちょくちょく見られたことが示すように、ここのところの「構造改革」(要するに首切り)によって大企業の体力が強化されたことは間違いなく、いったん本格的な景気回復が始まったら凄いことになりそうだということは十分に予感できるわけだけれども、それはサプライ・サイドでの生産性の向上でしかなく、景気回復の原因にはなりえないというのはおっしゃるとおり。「構造改革派」の人たちは金融機関の不良債権の問題と企業の生産性の問題を分けずに論じることで、自らのアジェンダを推進しようとしているように見える。

 それで、日銀はいったい何をやっているんだ、なんで日銀がことあるごとに権限の範囲外の「構造改革」なんかに言及するのか、ということになるわけだけれども、それはぜんぶ日銀が意図的にやっているんだと唱えるのが、リチャード・A・ヴェルナーの『円の支配者』という本である(ひとに貸してしまったので読書メモで取り上げるのはもう少しあとになる)。『円の支配者』は日銀陰謀説であるが、そのベースラインとしての日銀無能説の標準的な形を理解するのに本書は役に立つ。なお、日銀そのものは日銀無能力説とでも言うべき立場に立っている(『目からウロコの日本経済論』の項を参照。なお、この本は本書でも言及されているが、著者はその後左遷されたらしい)。

2001/7/5

TRCの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ