僕はやってない!

仙台筋弛緩剤点滴混入事件 守大助勾留日記

守大助、阿部泰雄 / 明石書店 / 2001/06/30

★★★★

これはなかなか厄介な本

 2001年1月、仙台の北陵クリニックにおける不審な死亡事故に関連して、同病院の准看護士であった守大助が、点滴に筋弛緩剤を混入して複数の患者を殺した容疑で逮捕された。本書はその人が拘置中に書いた手記と日記、そして弁護団団長による解説から構成されている。彼らの基本的な主張は、守大助は容疑がかけられているような行為をまったくやっていないというもの。不審な死亡事故の原因は北陵クリニックの杜撰な経営と医療であり、守大助が逮捕されたのは病院側のフレームアップである、とする。

 本書の手記と日記はきわめて混乱した内容で、読み物としてお勧めすることはできない。ただ、冤罪事件に関心がある人にとっては、昔ながらの冤罪の生産システムがいまでも機能していることを確認できる資料として有用だろう。ここでいう昔ながらの冤罪とは、(1) いろんな意味でのリテラシーの乏しい弱い人が、(2) 死刑や無期懲役に相当するような重大な犯罪の容疑で逮捕され、(3) 警察の一方的な取調べによって自白させられ、(4) 人権派弁護士が介入する、というパターン。このところ、三浦和義の事件(『報道被害者と報道の自由』)、松本サリン事件の河野義行(『「疑惑」は晴れようとも』)、東電OL殺人事件(『東電OL殺人事件』)、痴漢冤罪事件(『でっちあげ』『痴漢犯人生産システム』)のように、これらのパターンがいずれかの点で破れたケースが出てきて興味深いのだが、この筋弛緩剤混入事件は戦後日本に見られた多くのケースの典型例のように思われる。

 私はこの事件の背景をほとんど知らないので、本書の内容の信憑性については判断不能だが、アメリカ製リーガル・スリラーの読者としては、仮に守大助が真犯人だったとしても、これは無罪(または不起訴)になるべきケースだと思う。いずれにせよ、警察の取調べに対しては黙秘するのがデフォルトであるという社会的コンセンサスを作らないと始まらないだろう。

2001/7/12

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