女の能力、男の能力

性差について科学者が答える

Sex and Cognition

ドリーン・キムラ / 新曜社 / 2001/06/15

★★★★

まっとうな本

 著者のWebサイトでは「認知神経生物学」という名称が使われている。本書は、性差、特に認知スキルと運動スキルにおける性差の生物学的根拠を扱っている研究のレビューである。性差を検出するための認知/行動心理学的な実験を紹介し、それにホルモンと神経系の2つの生理学的な性差がどのように関連付けられているかを解説している。『話を聞かない男、地図が読めない女』のようなポップ心理学との違いは、こちらがまっとうな科学者による普通のレビューであるという点にある。そのせいで、少なくともこの分野に限っていえば、確信を持って言えることがそんなに多くないことがわかる。また、引用されている神経生理学の研究に新しいものが多いことから、著者らが行っている研究がまだ若い段階にあることがわかる。ただ、研究プログラムは明確で、時流にも乗っているわけなので、この分野の研究はどんどん進展していくのだろう。

 説明原理にはやはり進化心理学が使われている。正直いってこの部分は邪魔に感じられた。しかし、他にやりようがないこともたしか。

 個々の研究がどれほど再現されているかがわからないので慎重にならざるを得ないが(こういう分野での実験の再現性には注意が必要である)、本書で紹介されている内容で一番関心を持ったのは、ホモセクシャルとトランスセクシャルの人に、反対の性の特徴が見られるという知見だった(要するに、男性のホモセクシャルには女性的な特徴が見られる)。このことは、(1) これらの現象に生物学的基盤があることと、(2) 性差の生物学的基盤が本物であることの2つを強力にサポートする証拠であるように思われる。ただそうである場合、ホモセクシャルやトランスセクシャルは「ホルモン異常」以外のなにものでもなくなるので、いろいろと難しい問題が生じてくる。進化論の文脈ではきっと「親による投資」の問題の、「おじ/おばによる養育参加」みたいな仮説で説明することになるだろう。倫理上の問題はもっと難しく、サイコパスをどう理解して処遇すべきか、みたいな問題と似た話になる。

 なお、著者も「日本の読者の方へ」で述べているように、本書で紹介されている研究の多くは西洋人を対象としており、文化的バイアスがかかっているようだが、このレベルで行われる研究では、仮に文化的バイアスがあることが判明し、違ったパターンを示す文化が発見されれば、それ自体が興味深い発見になると思われる。この方面での研究はあまり進展していないようで、認知/行動心理学的な文化比較実験については、かなり古い研究が引用されていることが多い。また、アメリカ国内で行われた人種間比較の研究もいくつか紹介されており、インプリケーションはこちらの方が厄介ではある。特にアジア系やアフリカ系の方が、数学適性検査の結果の男女差が小さいなんてのはずいぶんと怖い話で、西洋エスノセントリズムに陥りがちなタイプのフェミニズムにとっては性差そのものよりも打撃となりかねない。

 著者のwebサイト。下の方の"Non-Research Articles"はなかなか興味深い。

 日本語版のサポート・サイト。「訳者あとがき」がそのまま掲載されている。

2001/7/12

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