自然科学としての言語学

生成文法とは何か

福井直樹 / 大修館書店 / 2001/02/15

★★★★

生成文法プロパーによる宣伝の書

 著者はアメリカを拠点に活動している生成文法プロパーの研究者。本書は、生成文法の現状を論じる文章を集めたもの。技術的な側面については近いうちに概説書を出版する予定があるらしい。

 (言語)哲学と同じく言語学においても、日本の状況にはアメリカの状況とのずれがあるが(経済学については、従来からの「マル経」と「近経」の対立軸はなくなったようだが、いちおうレギュラシオン経済学というのがある)、言語学については、生成文法が日本語を適切に扱えていないという理由から、構造言語学の方が主流になるのは当然であるという風に一般には認識されているものと思う。本書はそのような状況に向けてアメリカから発せられた「熱い本」であり、言語学という専門分野での対立軸を扱うだけでなく、日本のアカデミアのあり方そのものに対しても鋭い言葉で批判を行っている。個人的には、本書に示されている「生成文法が日本語(およびその他の非西洋語)も扱えるようになってきている」ということの証拠は依然として不十分に思えるし、生成文法の今後のあり方として示唆されているような方向性(とりわけ27ページあたりで示唆されている、言語システムへのゲーム理論の導入)は先走りなんじゃないかと思えるのだが、本書を貫く熱い思いは基本的に気持ちよい。スタイルも好みである。

 ただ、知り合いが「生成文法をやりたいんだけどどう思う?」と訊いてきたら、やっぱり「深入りしない方がいいんじゃない」と答えそうな気がする。より物理学に近いという意味での「下層」に、その下層が十分に発展していないがゆえに上方からアプローチする分野が、「複雑系」と呼ばれるような研究プログラムに近づいたときには、むしろその下層の研究に切り替えた方がよい、というのが個人的な感想である。

 なお、たまたま続けて読んだ『ことばの歴史』『ことばはどこで育つか』も参照。どちらにも生成文法についての言及があるが、前者が簡単な紹介でおおむね好意的であるのに対し、後者は基本的に支持しながらも、細かいところで批判的分析を行っている。

2001/7/26

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