北から見直す日本史

上之国勝山館跡と夷王山墳墓群からみえるもの

網野善彦、石井進編著 / 大和書房 / 2001/06/05

★★★★★

エキサイティング

 本書の内容の紹介文を、「はじめに」から抜粋して引用しておく。少々長くなるが、非常に良い文章なので。

近年ようやく従来の日本の歴史の、こうした問題点[引用者註: 中央の「正史」と文字資料の重視]が指摘され、列島内の各地域の独自な歴史性や、それらが複雑にからみ合いつつ織りなしてきた全体的な姿を解明しようとする研究が様々な形で始まってきた。本書はその中でも本州の北方に拡がる北海道を中心とする北の世界から日本史を見直そうとする試みの一つである。具体的には北海道道南の檜山郡上ノ国町にある中世後期の城館勝山館の過去二十年にわたる考古学的発掘の成果を手がかりとしつつ、ひろく北方世界の歴史を明らかにしようとしている。勝山館の概要については、本文の最初の「勝山館の招待」(石井)をお読み頂きたいが、近世に江戸幕府からエゾ地唯一の大名として認められ、アイヌとの交易独占権を保障されていた松前氏の開祖蛎崎(武田)信広の根拠地となった城館であり、その子光広が松前に拠点を移して後も重要視され、十五世紀後半から十六世紀最末期まで前後約百三十年として存続した城だからである。すでに二十年間余も続けられた勝山館の発掘は、数多くの遺物や遺構を次々に明るみに出し、夷王山墳墓群はじめ周辺部や城下町ともいうべき部分の調査とあわせて瞠目すべき成果をあげている。

 この発掘調査の報告を中心として1999年9月に開催されたシンポジウムの記録である。かなり専門的に突っ込んだトピックが多くて素人には読みにくいけれども、そこからかいま見える全体像はかなりエキサイティング。特に興味深いのはアイヌの問題で、通り一遍の知識しか持っていなかった私には驚愕すべき内容だった。巻末の網野善彦の文章から引用しておく。

とくにアイヌの場合、これまでは「アイヌは和人の圧迫で農業を失った」というような表現がされていました。農業をアイヌがやらなくなったのは、本州人による圧迫、強引な交易の強制の結果であるといわれていた時期があったと思いますが、昨日来のご報告によって、アイヌ民族自身が交易の民、交易民族として、十三世紀以降、非常にしぶとくまた強力な力を持ち、広域的に活動していたことを、具体的な遺物を通じて非常に明確に教えていただくことができました。
とくにアイヌの陶磁器・漆器や鉄器の使用は、これまでも知られていましたが、やはり「未開民族」の一つのあり方という捉え方がされており、「和人」の影響による自立性を失い、「和人」との交易に依存するようになったという捉え方がされてきたのです。これは従来の歴史学の中に、農業こそが先進的で、商業・流通は社会を動かす力ではないという「確固」たる思い込みが極めて根深くあり、多くの歴史研究者たちは農耕民族、農業民族とは異なる交易の民、交易民族の独自のあり方をまったく視野に入れようとしませんでした。しかし人類社会全体を見ても、こうした交易に従事する民族の活動は広く見出されます。沖縄の人々、琉球人もそうした人々だと思いますが、このような観点が勝山館を理解する上で非常に重要な意味を今後とも持ってくることは確かで、こうした見方によって従来とはまったく違った視野の中で、この館をとらえることが可能になってきたと思われます。

 例によっての網野節だが、実際に本書を読むと改めてびっくりする。

2001/9/23

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