ベトナムの少女

世界で最も有名な戦争写真が導いた運命

The Girl in the Picture

デニス・チョン / 文藝春秋 / 2001/09/10

★★★★★

力強いノンフィクション

 著者のデニス・チョンは中国系カナダ人。

 ベトナム戦争の報道写真で最も有名なものの1つに、ナパーム弾の攻撃を受けて、泣き叫びながら全裸でこちらに向かって走ってくる少女の姿を写したものがある。あの写真が撮られたのは1972年6月8日、撮ったのはAP通信のニック・ウットという名前のベトナム人非常勤通信員、そして被写体は当時9歳のキム・フックだった。本書はこのキム・フックの半生記である。

 彼女はその後、あの写真の被写体であるという理由から国家のプロパガンダの道具として使われ、キューバに留学してソ連の崩壊とそれに伴う経済の混乱を経験し、カナダに亡命する。キリスト教の信仰を持っていることが好都合だったのか、その後はアメリカとの「和解」に関連するイベントに積極的に関わっている。つまり、この人は何らかのムーブメントの象徴の役割を果たす一生を送ってきていることになる。

 まあ数奇な半生と呼ぶべきだろう。個人的には読んでいるあいだ何度か目頭が熱くなったので、傑作として位置づけたいのだが、物語のスタンスが西側に偏りすぎと感じる人もいるかもしれない。特に、東側のプロパガンダに使われた過去と、「アメリカを許す」ムーブメントの象徴を演じる現在に、どのような違いがあるのかという突っ込みが予想される。しかし、細かい描写は、とりあえずそのような疑問を忘れさせてくれるほど圧倒的な迫力を持っている。

 アメリカのベトナム戦争映画で画面の端に写るベトナム農民が、いったいどういう積もりで生きていたのか、またその後の共産主義国家をどのように生きたのか。ソ連の崩壊はベトナムとキューバという2つの共産主義国家にどのような(異なる)影響を与えたか。普通の人間が西側に亡命するというのは、いったいどのような経験なのか。そういった疑問に対する、一人のベトナム人女性の視点から見た答えがここには記されている。

 それとは逆に、巧妙に隠蔽されているように思われる要素もある。キム・フックは著者に対してそうとうの協力をしたようだが、あえて語らなかった事柄も多々ありそうで、その選択的な態度がバイアスを感じさせる要因の1つになっているような気がする。まあ「察してやれよ」ということなんだが。

 なお、『我々はなぜ戦争をしたのか』は1990年代のアメリカとベトナムの「和解」にまつわる話。亡命後のキム・フックの活動を理解するためのバックグラウンド・ストーリーとして。

2001/10/21

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