田中康夫が訊く

どう食べるかどう楽しむか

田中康夫 / 光文社 / 2001/10/05

★★★

相変わらず不思議

 『BRIO』に1999年から2001年にかけて連載されたものをまとめた本。田中康夫が各種の料理店の主人やマネージャに、その料理を味わう上での心得を訊ねるという趣向のマナー本。天ぷらは塩か天つゆか、天つゆはどれほどつけるのか、そばつゆはどれほどつけるのか、わさびは醤油に溶かすのかなどの基本的な疑問に、各々の道の権威が答える。

 全体的に、「お客様は好きなようにお食べになればよろしいんですよ」と言っておきながら、あれこれと細かい注文をつけるというパターンが多い。こういう態度でないのは、外国起源の料理について「本場ではこうなってます」という解説をする人と、お茶屋の風俗店としてのシステムを解説する芸妓さんぐらいである。

 この読書メモで著作を取り上げるのは初めてなので(買ったけど途中で放棄した本はいくつかあるが)、田中康夫について少々。私がこの人から連想するのは、「おしぼりを使って顔を拭くオヤジ」という像である。何かを捨てている、という感じだ。本書からいくつか引用してみる。まずソムリエにイタリアのワインについて訊ねる項(149ページ)。

田中 こうしたことを心得ているかいないかで、レストランでの至福度も天地の差ですもの。本日は世界一ソムリエの田崎さんの謦咳に久方ぶりに接し、非常に素敵な刺激を受けました。
田崎 いやあ、毒舌家の田中さんに誉められると気恥ずかしいなあ(苦笑)。

 旅館の女将との会話(303ページ)

佐藤 でも、これだけお話しすれば、旅館は怖くないって分かっていただけましたでしょう?
田中 ええもちろん、佐藤女史は僕にとって、京都におけるマンマ的存在の女性ですから(笑)。

 半径5m以内で語られているのを聞きたくはないような会話である。この人は「粋」とか「スマートな振る舞い」などに頻繁に言及するくせに、その文章はそういった概念とは対極のところに位置している。このことが私にとっては長らく謎だったのだけれども、彼が長野県知事になったことがきっかけとなったのか、私が単に世慣れたせいなのか、いまでは謎が解けたような気がしている。要するにこの人は「中小企業のたたき上げオヤジ社長」タイプの人なのである。

 知事選挙の際に、対立候補が『噂の真相』の連載日記を使って人格攻撃キャンペーンを行い、かえって田中康夫に同情票が集まったという経緯があったらしいけれども、これはまさに「ウチの社長、下品だけど憎めないところあるんだよねぇ」という心情の強力さを見抜けなかったということなんだと思われる。そしてこういうバイタリティ溢れるオヤジ社長は、再生を必要としている地方の行政の長としては適任であったと、後世の人は振り返ることになりそうだ。

2001/11/4

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