キッチン・コンフィデンシャル

Kitchen Confidential: Adventures in the Culinary Underbelly

アンソニー・ボーデイン / 新潮社 / 2001/10/30

★★★★

シェフの自伝

 著者はニューヨークのフランス料理店の総料理長。レストラン業界を舞台にしたミステリ小説をすでに2作書いているが(早川書房から『シェフの災難』と『容赦なき銃火』として出ている。どちらも私は未読)、本作は自伝的要素の入ったノンフィクション。

 1956年生まれで、80年代アメリカの無軌道な世界にどっぷり浸っていた時期を回顧し、「昔は俺もワルだったんだぜ」と語るタイプの本。アメリカのレストラン業界を題材にした阿佐田哲也と言ってよい。もちろん国と時代が違うので構成要素が異なるが(ヒロポンがヘロインとコカインに、中国人/朝鮮人がヒスパニックに、ヤクザがマフィアに)、全体的な印象も、著者本人の位置づけも、そっくりの印象を与える。阿佐田哲也/色川武大の熱心な読者であった私は、この本も大いに楽しんだ。

 ただ、これは原文で読むべきだったと思う。翻訳が悪いわけではないが(むしろ良い部類)、本書は文体そのものからオーラが出ているタイプの本なのだと思われる。そしてそのオーラをじかに受け取った場合、著者の「ワルぶり」はもっと鼻についたかもしれない。よくもわるくも、翻訳はクッションとなっているだろう。

 CIAで学んだ時期の描写が少しあるけれども、本物の料理人だけあって、『料理人誕生』とはえらい違いだ。最後の方に、勤務先のレストランの日本支店を指導するために東京を訪れたときの描写があり、そこの部分が活き活きとしていて面白い。なお、デヴィッド・フィンチャー監督、ブラッド・ピット主演での映画化が予定されているとのこと。このことからわかるように、ある種典型的な「90年代マッチョ」なんで、読んでいて腹が立つ人はいるかもしれない。まあ自伝ではなくピカレスク小説と思って読めばなんとかなるだろうし、『田中康夫が訊く』のようなヘナヘナしたのと比べれば100倍もマシなのはたしかだ。

2001/11/11

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