Who Stole Feminism?

How Women Have Betrayed Women

Who Stole Feminism?

Christina Hoff Sommers / Simon & Schuster / 1994/01/01

★★★★★

迫力のある批判

 90年代のアメリカで勢力を拡大した「ジェンダー・フェミニズム」を批判・攻撃する本。本書は1994年に出版されたものだが(私が読んだペーパーバック版は1995年)、著者は2000年に入って『The War Against Boys』という2冊目の著作を出している。

 アメリカの90年代のフェミニズムの最も目立つ特徴は、いわゆる「ジェンダー論」を中心に置いて尖鋭化したフェミニストたちが、権力の場を確保したということだろう。個人的に強く印象に残っているのは、クリントン大統領のモニカ・ルインスキー・スキャンダルのときに、NOWをはじめとする有力なフェミニスト団体が大統領を擁護する立場に回り、モニカ・ルインスキーの人格攻撃を行ったことだった(『義憤の終焉』の項も参照)。もう走り出してしまって止まれないんだろうな、と思ったことだった。

 本書の著者のクリスティーナ・ホフ・ソマーズは、いちおう「哲学」を専門とする学者らしいのだが、どちらかと言えばジャーナリスト的な立場をとって、80年代末から90年代初頭にかけての「ジェンダー・フェミニズム」の現状を報告している。トピックのほとんどは事実関係であり、フェミニズムの理論/理念に関係する形而上学的な批判はあまりなく、そのような批判をするときには常識/良識/コモン・センスをベースにしている(その結果、各種の理論/理念を「ジェンダー・フェミニズム」のコンテキストに沿って論じることはほとんどなく、「ジェンダー・フェミニスト」の主張を紹介して「アホか」と言っておしまい、という感じの場面が多い)。タイトルの"Who Stole Feminism?: How Women Have Betrayed Women"は、「ジェンダー・フェミニスト」たちが昔からのフェミニズム(著者はequity feminism、mainstream feminismなどと呼んでいる)から「フェミニズム」という呼称を奪い、無茶なことをしてアメリカの女性を裏切っているという意味。この文脈での「ジェンダー・フェミニズム」は蔑称である。以下、カギ括弧を外します。

 内容は、大きく分ければ、(1) ジェンダー・フェミニストたちがいかに大学を拠点として権力を掌握したかということと、(2) ジェンダー・フェミニズムから発せられる情報にどのような欺瞞があり、それがどのように無批判にメディアに流されたかということの2つになる。

 (1)について。『「知」の欺瞞』は、アメリカの大学の人文科学系の部門が、カルチュラル・スタディーズ/ジェンダー・フェミニズム/ポスト構造主義などと呼ばれるような分野の人々によって占拠されつつあることに対する危機感を背景にしている本だった。『「知」の欺瞞』の著者らは、批判の対象を「ビッグネームの言葉遣い」のみに絞るという慎重な態度をとったわけだが、それが遠くからのライフルの狙い撃ちに似ているとすれば、本書の著者は銃剣を手にして敵地に突入する歩兵に似ている。自らフェミニスト団体の会合に足を運び、いろんな人から話をきいて書くというジャーナリストの仕事である。

 その仕事から浮かび上がるのは、強力な武器としてのpolictical correctnessの概念を利用して大学に入り込み、ネットワークを使って影響力を強め、政府機関との結び付きを強化し、クラスを通じて後継者を増やすという自己拡大的なシステムの像である。特に重要なのは、政府の金を集める仕組みを作り上げたことで、「女性のためのプログラム」に注ぎ込まれる大量の資金を使って、大学やその他の機関内にその種のプログラムの「専門家」、すなわちジェンダー・フェミニズムのシンパの職を確保するという戦略。もちろんフェミニズムは産業としても大きくなっているはずだが(ロマンス小説の産業に入り込もうとして失敗した、という話はなかなか面白い)、根幹のところでは政府の金で支えられているというのが皮肉な点である。

 (2)について。著者は、ジェンダー・フェミニズムから発せられたさまざまな情報を(合理主義者の立場から)批判的に検討し、そのような情報がメディア上に流れてしまった経緯を(ジャーナリストの立場から)調査している。これはあくまでも1994年の時点での検討なので、その後の流れは変わっているかもしれない。ただ、いったんメディアに流された情報は、その後間違いであることがわかっても修正されずに引用され、人々の記憶に定着することが多く、そのようなメカニズムをジェンダー・フェミニストたちは意図的に利用して自らのアジェンダを推進しようとしているというのが著者の批判の1つである。ちなみに2000年の『The War Against Boys』は、1990年代の初頭に始まった「女子生徒の自尊心の低さ」のトピックが完全に根付いてしまったことを嘆く本。

 著者が取り上げている主なトピックには次のようなものがある(表現はずいぶん端折った)。「女子生徒は思春期にかけて急激に自尊心をなくす」、「スーパーボウルの日には女性に対する暴力が多くなる」、「キャンパスにおけるレイプが多い」、「レイプの中ではデート・レイプの割合が多い」、「女性に対する家庭内暴力は普遍的である」、「収入に性差があるのは性差別の現われである」、「欝症状に悩まされている、または不幸せな女性が多い」。著者はこれらの(多様な)フィールドの専門家ではないので、これらのトピックに関するレビューとしては網羅的なものではないように見えるのだけれども、だいたいは妥当な批判のように思えた。なお、これらのトピックに関する著者の批判には、完全に間違いだというものから、事態の誇張だ、専門家の間では受け入れられていないといったものまでの幅があることに注意。

 内容の紹介ばかりになってしまったが、基本的に地に足のついた面白い読み物である。質実剛健という感じの、抑制したユーモアの効いた文体も好みに合った。『The War Against Boys』の項も参照されたい。

2001/11/18

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