The War Against Boys

How Misguided Feminism Is Harming Our Young Men

The War Against Boys

Christina Hoff Sommers / Simon & Schuster / 2000/01/01

★★★

ちょっと力が弱いか

 同じ著者による前著『Who Stole Feminism?』の項も参照されたい。本書は前著で取り上げていた「自尊心研究」を起爆剤にしたキャンペーンが、アメリカの教育界に浸透した結果、初等教育がやばくなっているという話である。前著と比べるといささか迫力に欠け、「自尊心研究」の問題点を論じる部分は前著と重なりあっているけれども、私は楽しんで読むことができた。

 前著ではジェンダー・フェミニズムのアカデミアへの浸透が大きな問題として扱われていたが、こちらはそこから事態が進展して、初等教育に影響がおよび、それが実際に弊害をもたらしていると論じている。これは実はこのところ日本でホットなトピックとなっている「ゆとり教育批判」と重なり合う部分がある(『論争・学力崩壊』など)。日本では文部省が「ゆとり教育」の首謀者であるとして批判されるが、著者がアメリカでの1990年代の「ゆとり教育」の首謀者として名指しするのはジェンダー・フェミニズムである。そして、この「ゆとり教育」(著者は"progressive"などの言葉を使っている)の被害が、やはりジェンダー・フェミニズムのバイアスのおかげで男子生徒に集中する。これがタイトルの"The War Against Boys: How Misguided Feminism Is Harming Our Young Men"の意味。

 1990年代の初めに、フェミニストが"shortchange"という言葉を使って、「アメリカの初等教育が女子生徒を不利な立場に追い込んでいる」という主張を始めた時点ですでに、そのような事実はなく、むしろ男子生徒の方が問題を抱えていた。それなのに、この主張に基づいて女子生徒を優遇する策を次々と打ち出したせいで、事態はいっそう悪化した。一方、英国やオーストラリアなどの国では、フェミニストの影響力が強くないので、教育機関は男子生徒の抱えている問題にフォーカスを当てて成果をあげている。とまあ、そういう話である。

 以下、前著も合わせての一般的な感想。この読書メモで何度か述べているように、90年代においては、全体的に見れば、性差を含む人間の各種の性質の生物学的基盤を肯定する立場が勢いを強めたように見える。その原因には、計測手法が進歩したということもあるけれども(『女の能力、男の能力』の項も参照)、遺伝子工学の進展によって、各種の性質に生物学的基盤があるという概念が社会に素直に受け入れられやすくなったということもあるだろう(『話を聞かない男、地図が読めない女』がベストセラーになったという事実はそうとう重い意味を持っている)。

 なお、上記の『女の能力、男の能力』の著者ドリーン・キムラは、大学におけるジェンダー・フェミニストの活動に反対する意思を公にしているカナダ人女性であり、ソマーズが言うところのequity feministである。生態学/動物行動学をベースにしている長谷川真理子(『進化と人間行動』)は、『科学の目 科学のこころ』において、日本のフェミニストとの共同作業をやろうとしてしんどかったという感想を遠まわしに述べていた。equity feministでないはずがない長谷川真理子が(まあそれを言ったら、equity feministで「ない」人はそうそうはいないと思うが)、ジェンダー・フェミニストとの共同作業をやろうと思えたこと自体が、日本におけるフェミニズムの状況のいくつかの側面を示唆しているように思う。これを「違い」ととるべきなのか、「遅れ」ととるべきなのかは、私にはよくわからない。その手のものをまったく読まなくなってしまったので。ただ「遅れ」だとしたら、後発組の利益を享受できるかもしれない、と言っておこう。

2001/11/18

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