War in a Time of Peace

Bush, Clinton, and the Generals

War in a Time of Peace

デイヴィッド・ハルバースタム / Simon & Schuster / 2001/01/01

★★★★★

圧倒的な迫力

 デヴィッド・ハルバースタム(『勝負の分かれ目』『ジョーダン』)の最新作は、アメリカのポスト冷戦の軍事外交政策を扱った本で、この分野では『ベスト&ブライテスト』以来の著作となる。話は湾岸戦争の終結前後から始まり、2001年にジョージ・W・ブッシュが大統領になるところで終わる。背表紙には、本書が『ベスト&ブライテスト』よりもさらに「野心的で啓発的」であり、「われわれの世代の『戦争と平和』」であるという賛辞が載っているが、この推薦文を書いているLeslie H. Gelbは本書の執筆にあたっての著者のお気に入りの情報源の1人であると思われるので、素直に受け止めることはできない。しかし本書が、後世の人が1990年代アメリカを考える上での準拠枠の1つになることはまず間違いないだろう。個人的には、同時代の出来事を描いている本書は、私にとっての過去の出来事を描いていた『ベスト&ブライテスト』よりもずっと迫力があって面白かった。

 『ベスト&ブライテスト』と同様にワシントン内の人間関係を軸とするインサイダーもので、表面にはなかなか出てこない関係者たちの間の綱引きがやたらに細かく描かれる。大統領本人を含むクリントン政権のスタッフたちに対する視線はかなり辛辣だが、批判のスタンスは党派的というよりも世代的なもので、具体的にはベトナム戦争の教訓が身に染みているかどうかという点で「やつら」と「われわれ」の区分けが行われている。その結果、(父親の方の)ジョージ・ブッシュ大統領の評価が相対的に高くなっている。私の知る限り、クリントン大統領の任期中はレーガンに対する再評価はあっても、ブッシュについてこれほど好意的な言及がなされることはめったになかった。本書が外交政策に関する本であるという理由もあるのかもしれないが、今後、ジョージ・W・ブッシュ大統領の任期中に父親の評価はさらに上がるのかもしれない。また、ゴア副大統領についても、ブッシュ・シニアに対するものと似た視点からの好意的な記述が多い。

 でまあ本書は、記述の繰り返しが多いなどの欠点もあるにせよ非常に面白い本で、そこいらの政治小説や軍事小説よりもずっと楽しめる。しかし、国家としてのアメリカを頻繁に"we"という一人称代名詞で指示していることが象徴するように(翻訳版ではたぶん「米国」と訳されるだろうけれども)、本書はあくまでもアメリカ人を対象に書かれた、内向きの、感情の付与された本だ(まあハルバースタムの著作はたいていそうである)。そしてその筆力のせいで、一日本人としての私は、そこらのいわゆる「レアルポリティーク」指向の国際政治理論本よりも、また能天気なアメリカ製軍事スリラーよりも、はるかに大きな圧迫感を受けた。この本にはアメリカの大国としての矜持と傲慢の両方が実に素直に表れていて、『戦争を記憶する』の項などで述べているクリントン政権下の1990年代アメリカに特徴的な性質(著者本人はそこから疎外感を感じているようだけれども)にきれいに整合しているように見えた。私はハルバースタムの本が好きだし、本書も楽しんだが、全体としての読後感はアンビバレントである。ただ上に述べたように、われわれがベトナム戦争を『ベスト&ブライテスト』を通して見るのと同じように、後世の人が本書を通してクリントン政権の外交政策を見ることは間違いないように思う。

 なお、本書は2001年9月に起こったアメリカへのテロリズムの直前に脱稿したもの。湾岸戦争、ソマリア、ハイチ、ユーゴスラヴィア(ボスニアとコソヴォ)などのトピックを取り上げている本書に、イスラム過激派とテロリズム一般に関する言及がほとんどないことが非常に興味深い。もちろん話題のドメインが違うという理由が大きいだろうけれども、ハルバースタム自身と彼がインタビューした政府高官たちの間で、この2つのトピックに対するアウェアネスが小さかったという事情を表しているようにも見える。2001年9月のテロリズムと、それに続く(現在も継続中の)アフガニスタンを舞台とする戦争は、本書に描かれている状況を根本から変えるものと思われるが、その直前に書かれた本書は、2001年9月以降のアメリカの外交政策を考える上での恰好のベースラインとなるだろう(なおハルバースタムは写真集"New York September 11"(未読)の序文を書いている)。

2001/12/02

amazon.comの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ