あたりまえのこと

倉橋由美子 / 朝日新聞社 / 2001/11/01

★★★★★

これは完璧

 倉橋由美子による小説論。前半は1977〜79年に岩波の『波』に連載したもの、後半は1996〜98年に『小説トリッパー』という雑誌に連載したもの。

 かつて私は倉橋由美子のファンで、特に『夢の浮橋』、『城の中の城』あたりは何度も読み返すほど熱中したのだけれども、この人のエッセイは読んだ記憶がなかった。で、本書を読んで大きな衝撃を受けた。これほど共感できる内容の多い小説論は読んだことがない(特に前半部)。私の好みの小説を書いていて、しかもそれを意識的にそう書いていることは明らかだったので、こういう考えを持っているのは当然といえば当然か。このサイトにこれまで書いてきたこと、また今後書くことのいくつかが、倉橋由美子のパクリだと言われるんじゃないかと心配になる。しかし、それらは著者がこの本に付けたタイトルが示唆しているように、私にとっても「あたりまえのこと」なのである。

 あとがきには、著者が健康を害していることが記されている。帯には「鴎外から春樹に詠美まで」とあるけれども、村上春樹のことはちゃんとバカにしているから安心していただきたい。

 著者がSFやミステリなどのエンタテインメント小説に向けるかなり醒めた視線には異論がないわけではない。英語圏のエンタテインメント小説は大きなマーケットであり、そこに才能が集まり、小説技法上の競争が起こって、結果として優れた小説が出てくる確率が高くなるという好ましいプロセスが働いているように思っている。

2001/12/9

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