王者のゲーム

Lion's Game

ネルソン・デミル / 講談社 / 2001/11/15

★★★

一気読みだけれども

 ネルソン・デミルの2000年の作品。『プラム・アイランド』の主人公が、ニューヨークのテロリスト対策機関に転職し、リビアのテロリストと対決する。久しぶりに一気読みできる娯楽小説だったけれども、下巻の後半は間延びしていて少ししんどい。アメリカ流の能天気でナイーブなイスラム観だが、最悪の部類ではない。

 「解説」では次の箇所を引用して翻訳を誉めている。

Kate asked me Where to?
The Ranch in the Sky.
Why did I even ask?
ケイトがたずねてきた。「で、これからどこへ?」
「一路、空の牧場へ」
「きいたわたしが馬鹿だった」

 しかし、これはあまり積極的に誉めるような翻訳ではないと思う。この箇所に限らず、本書の登場人物たちは全体的に意味が過剰な「戸田奈津子の字幕」的なセリフを発している。上記の引用部分は決して間違いではないが、これを良い、上手いとして積極的に推奨するような雰囲気が蔓延すると、翻訳エンタテインメント小説は映画の字幕みたいになってしまいかねない。

 このところ日本語の文章の供給者(作家、翻訳者、出版社など)は、日本語の消費者には「ひねったユーモア」、「抑制されたユーモア」を解するセンスがなくなっているという想定をしているように思える。そして、『侍魂』をはじめとする一定の種類のサイトが人気を博している状況を鑑みれば、これはまったく正しい想定なのだろう。もちろんそのような状況を作り出したのは日本語の文章の供給者に他ならない。私の場合、清水義範の文章が面白いという評判があることを知ったときに、異変の前兆を感じた記憶がある。

 まあひねったユーモアばかりなのも鬱陶しいことはたしかで、田口ランディの『スカートの中の秘密の生活』の項にも書いたように、素直で元気が良い、基本的に好ましい文章も存在する。それが成功したときの良さは、ひねった文章が成功したときの良さよりも好ましいだろう、とも思う。

2001/12/16

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