エレガントな宇宙

超ひも理論がすべてを解明する

The Elegant Universe: Superstrings, hidden dimensions, and the quest for the ultimate theory

ブライアン・グリーン / 草思社 / 2001/12/25

★★★★

やはりわからん

 専門家が書いた、超ひも理論の、数式をまったく使わない、完全な素人向けの啓蒙書。全体の1/3ほどを使って相対性理論と量子力学を解説し、残りで超ひも理論について説明する。The Official String Theory Web SiteBookstoreでは"absolutely essential reading"と記されている。

 相対性理論と量子力学を扱っている部分は、類書は他にいくらでもあるとしても、うまく書かれているように思った。超ひも理論を扱っている部分は、先に進むにつれて「わかった感」が薄まってくる。最後に、宇宙論との関わりを扱っている部分になって再び「わかった感」がちょっとだけ濃くなるが、全体としてみれば、本書を読んだ感想は「超ひも理論はやっぱりわからない」というものだった。

 私はひも理論がまったくわかっていないが、私よりもわかっていない人のために、背景を説明することにする。まず、本書の最初の1/3で説明されている相対性理論と量子力学は20世紀の普通の物理学であるが、この2つは小さいスケールにおいて矛盾を呈する(本書183ページあたり、など)。また、素粒子物理学において、物体の究極の粒子と思われていた「素粒子」が実は究極の粒子ではないことを示唆する証拠が現われてきたり、「力」の理論に重力をうまく組み込めないなどの問題が出てきた(本書第1章)。これらは、物体の究極の単位を、10次元の時空間の中で振動する1次元の「ひも」状のものであると仮定すれば解決できる、というのがひも理論である。次元が10個なのは、そう仮定すればいろんな現象がうまく説明できるし、整合的な理論が作れるから、である。つまり、都合のいいように、われわれが体験している4つの時空間に、さらに6つを追加したのである。したがって普通の人(というか、ひも理論の研究者以外の人)には、「残りの6次元はいったい何なの?」という質問をする権利がある。ひも理論の研究者は、次元が10個あると「仮定」しているから、われわれ人間が認識していない残りの6つは「巻き上げられている」とか「コンパクト化されている」と答えるわけだが、それがいったいどういうことなのかはたぶん誰にもわかっていない。

 さて、世界の振る舞いは、10次元の世界の中で振動する1次元のひもという形で記述できるようになる。そして研究の方針は、10次元の空間を扱う純粋に数学的な営みを通して、この枠組みの数学的な振る舞いを理解することとなる。というのも、ひも理論の扱うスケールはあまりに小さすぎて、実際の観測に結び付けることが難しいため、対象としている観念を数学的に操作する以外に研究の進めようがないからだ。理論が実験に先行している、というのはこのことである。また、ひも理論の研究を行うことのリスクとは、この枠組みが現実の世界のあり方を表しているかどうかはいまだ不明なため、しばらく経ってみれば、数学の特定の領域での進歩はあったものの、それは世界のあり方、つまり「物理学」とは関係ないものだったということになる可能性があるという意味である。

 本書のひも理論に関する記述の少なからずの部分、とりわけ著者自らが関与した研究に関する部分は、そのような数学的な営みについての話である。この営みは現在進行形であり、著者本人も全体像がわかっていないから、遠い未来から見れば、素人のための啓蒙書には不要と思われるような細部が、不適切な順番で提示されている可能性がある。本書のひも理論を扱っている部分がわかりにくいのは、そこで扱われている数学の本質的なわかりにくさに加えて、このせいもあると思われる。

 以上、本書の第3部に入るときの予備知識として。根本的な勘違いがある場合には、ぜひご指摘を。

2002/1/10

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