発言

米同時多発テロと23人の思想家たち

中山元 編訳 / 朝日出版社 / 2002/01/26

★★★

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 2001年9月11日のテロリスト攻撃を巡っての23人の「思想家」たちによる文章を集めた本。エドワード・サイード、リチャード・ローティ、サミュエル・ハンティントン、ポール・ヴィリリオ、ジョルジョ・アガンベン、ジャック・デリダ、ドナルド・ラムズフェルド、アンドレ・グリュックスマン、アルンダティ・ロイ、アントニオ・ネグリ、サルマン・ラシュディ、アラン・フィンケルクロート、フランシス・フクヤマ、ユルゲン・ハーバーマス、サスキア・サッセン、ピエール・ルジャンドル、タリク・アリ、タハール・ベン・ジェルーン、オギュスタン・ベルク、ルネ・ジラール、ペーター・スローアーダイク、ピエール・ブルデュー、スラヴォイ・ジジェク。

 各文章の冒頭に付いている編訳者によるコメントが非常に鬱陶しい。執筆者の紹介に留めていればまだよかったのだが、編訳者による主観的評価を下しているのである。アイリス・チャンの『The Rape of Nanking』の日本版出版を巡ってのトラブルの原因の1つには、著者が訳者による「訳注」が付くことに反発したという事情があった。出版社側は、踏み込んだ解説を行う「訳注」を付けるのは日本の翻訳出版における認められた慣習であると主張したが、著者と著者を支持する側からは、それはオリジナルのテキストの文脈をねじ曲げる試みにしか見えなかったのである。特に『The Rape of Nanking』のケースでは、出版社の側にかなり露骨にそのような意図があったのだと思われる。

 本書のようなアンソロジーでは、編者が主観的コメントを付けてもいいとは思うが、各文章の冒頭に配置するのではなく、巻末にひっそりとまとめるべきだった。

 内容はあまり面白くない。それっぽい文章を書くときに、9/11事件についてデリダはこう書いている、という引用をするためのライター向けリファレンス本のような様相を呈している。しかもたいていの場合は、そんな引用をしても、引用文献リストにデリダの名前が入るという効用しかないような内容。あのような事件が発生し、「知識人」が発言を迫られたときに、どれだけつまらない言葉が出てくるかという見本市のようなものだ。その中で、ハンティントン、ラムズフェルド、ラシュディ、フクヤマなど、立場上、単純明解なことを言うしかないタイプの人々の言葉の強さが目立っている。

 なお、私は9/11事件に関する本や文章を読んではいるものの、個人的には「驚き」とか「衝撃」とか「発言欲」などはあまりない。

2002/2/11

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