橋はなぜ落ちたのか

設計の失敗学

Design Paradigms: Case Histories of Error and Judgment in Engineering

ヘンリー・ペトロスキー / 朝日新聞社 / 2001/10/25

★★★★★

見事な科学技術史

 著者は一般人向けのエンジニアリングの啓蒙書を書いている人。本書は、橋などの巨大建造物の歴史上の欠陥を紹介し、それらの設計上の間違いがどのように発生したのかを論じる工学一般の学生あたりをターゲットとした本である。過去の間違いを学ぶことで、今後の設計に活かすことができるという思想を見事に体現している良い本だった。著者は構造工学だけでなく、他のエンジニアリング分野にもこれらの教訓を活かすことができると主張している。

 主なトピックには、「スケール効果の見落とし」、「理論の精度は低かったが、安全係数を大きくとっていたせいで事故につながらなかったデザインが、技術者が慣れて安全係数を低くとった時点で事故を起こした」、「あるデザインが流行すると、その根本原理についての深い考察なしに、そのデザインの限界を超えた巨大建築物に挑戦してしまう」などがある。

 初めのほうに、重要でないトピックとして簡単に触れられている現象にはっとさせられた。ちょっと長くなるが、該当部分を引用する(36ページ)。

なじみのやり方を改善しようとして考え出された一見しっかりした構想が、思いもかけない事件となることがある。一九六〇年代前半、ヨーロッパで高層アパートメントビル建築の最も有望な新しい方法の一つが生まれた。それは、伝統的な建築方法から自然に発展してきたもので、工場で製造した大きなコンクリートのコンポーネントを組み立てて、長年にわたって悪いできばえとお金のかかる遅れの原因だった現場での建設作業の量を最小のものとする工法だった。壁、床、階段などはすべて事前に製作ずみで、現場に運ばれて、どれもが荷重に耐えられる一階分のユニットとして組み立てられる。一九六八年までに、イギリス連邦には、東ロンドンのローナンポイントの二四階建ての集合マンションを含めて、約三〇〇〇のそういうアパート用ユニットが作られた。一九六八年五月一六日の早朝、たまたま起きたガス爆発のために一八階の部屋の角の壁が吹き飛び、連鎖反応が引き起こされた。支えの不十分な上層階が崩れ落ちて、その衝撃で下の階もすべて崩壊した。建物の一角が上から下まで完全に破壊され、三人が死亡し、他に一一人がけがをした。

 この崩壊は、2001年9月11日にニューヨークのWTCビルが2棟とも全崩壊したのと同じメカニズムだと思われる。この節の最後には、1991年にニューヨークのハーレムで起きた事故が紹介され、似たような形で高層アパートの壁がいくつか吹き飛ばされても、建物自体は耐えたという記述がある。つまり、この問題は解決済みなので、これ以上言及する必要はない、という態度である。

 もう1つ興味深いのは、これまでの橋の代表的なデザインが、約30年おきに大きな事故を起こしているという話(192ページあたり)。前回に大きな事故が起こったのは1970年なので、次は2000年前後に「斜張」形式の橋が世界のどこかで派手な崩壊を起こす可能性があると述べる。この周期は、技術者の世代交替や技術の成熟(というか慣れ)などの、業界に内在するメカニズムによるものだと示唆されている。

 本書は、実際の工学に対して有効なフィードバックを提供する、科学技術史や科学技術社会論の理想型であると思った。その方面に関心のある方にはお勧めする。

2002/2/11

 『Why the Towers Fell』は、WTCタワーが崩壊したメカニズムを、FEMAのレポートに基づいて解説する科学ドキュメンタリー番組だった。2つのタワーはそれぞれ異なるメカニズムで崩壊に至ったとのこと。

2002/10/18

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