9・11(セプテンバー・イレブンス)

あの日からアメリカ人の心はどう変わったか

冷泉彰彦 / 小学館 / 2002/03/10

★★

形式上の限界

 村上龍の主催するメール・マガジンJMMで配信された「from 911/USAレポート」という連載記事をまとめたもの。9/11事件の直後の第一報から、2002年1月4日までの22回にわたる文章が収録されているが、配信はいまも続いているようだ。著者はアメリカ在住の小説家で、コロンビア大学の修士課程に在学中とのこと。

 私は9/11事件に関する報道にほとんど接してこなかったので、事件直後のアメリカ国内の様子がどうだったのかを知りたいと思って本書を買ったのだが、結局役に立たなかった。これは副題の「あの日からアメリカ人の心はどう変わったか」を書いた本というよりも、「アメリカに住んでいる日本人のTVウォッチャーのアメリカ人を見る目がどう揺れたか」を書いた本であった。メディア以外の経路で得た情報はかなり少なく、解釈には多大なバイアスがかかっているので、「著者はこう思った」ということ以外の情報はあまり手に入らない。

 本書はもともとメール・マガジンの形で配信されたものであり、そのようにして読まれるという前提ならば問題はないのだろうと思う。むしろ同時進行的にメール・マガジンを読んでいた人にとっては、記事の主観性とバイアスこそが魅力であり、購読の動機だっただろう。パーソナルな情報発信手段としてのメール・マガジン/Web日記は、メインストリームの情報と理解の仕方に対するコメンタリーとして書かれる。そして特に時事的なトピックに関するパーソナルな発言は、他にもWeb上にパーソナルな発言がたくさんあり、読者はそれを縦断的に読んで比較対照できるという前提で書かれる。本書は、そういう文章をコンテキストから抜きだして一冊の書籍にすると、なんとも落ち着かない本ができあがるという例だと思う。おそらく、外界から完全に隔離されたメール・マガジン/Web日記の方が書籍化はしやすい。

 なお、書籍になりやすい文章の方が高級である、というようなことは考えていない。念のため。本書のようなコラムやエッセイのジャンルでは、インターネット上でのパーソナルなものの方が、雑誌を含む従来の出版物よりも面白いと思っている。ただ、私はこのメール・マガジンを購読はしないし、Webの巡回もしないだろう。

2002/2/25

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