テロ後

世界はどう変わったか

藤原帰一編 / 岩波書店 / 2002/02/20

★★★

まあ普通

 9/11事件を受けて書かれた文章のアンソロジー。『世界』を中心とする雑誌に掲載された文章と書き下ろしの文章が混じっている。執筆者は坂本義和、西谷修、岡真理、三浦俊章、田島晃、黄光、ウンベルト・エーコ、杉田敦、大澤真幸、スタンリー・ホフマン、最上敏樹、藤原帰一。

 反米リベラル的な傾向の文章を集めたアンソロジーとして全体的な質が高い。いまのところ、このジャンルについて何も知らない人に1冊勧めるとしたら、本書が第1候補である。

 9/11事件以降、日本ではこのタイプの本が数多く出版されている。ブッシュ政権の主張を原則的に支持する派とそれを批判する派の両方の論考が収められたアンソロジーと、両者の間での論争は、私の見た範囲では存在しない。雑誌ではそういう試みが行われているのかもしれないが守備範囲外なのでわからない。

 私は勉強のつもりでそういう本に目を通しているのだが、9/11事件を切実な問題として捉えるという態度そのものに違和感を覚えている。本当にあれは日本人にとって切実な問題なのだろうか? 私は個人的な事情から2〜3年ぐらい前からテロリズム、特に自爆攻撃に関する本を探していたのだが、災害予防とか危機管理(『テロリズムとは何か』など)の観点から論じている本はあっても、テロリズムを正面から論じた新刊書は実に少なく、日本人はテロリズムに関心がないように見えた。TRCの新刊書籍検索で、書名の欄に「テロ」とでも入れて検索してみれば、どんな状況だったかがわかるだろう。

 オウム真理教の事件は、危機管理というコンテキストではテロリズムの一種として分類されるけれども、それ以外の観点での議論においては、得体の知れないテロリズムとは違う何かと把握されているように思う。そうすると日本人にとってテロリズムとは、海外にいた日本人が巻き込まれるものを除けば、高度経済成長期の終盤の左翼活動であり、もう終わったことなのである。今後の日本にとって重要になってくるかもしれないオクラホマ連邦政府ビル爆破事件を扱った『American Terrorist』は翻訳出版されていない。

 この状況は9/11事件以降も変わっていない。今後日本人が妙なことをしない限り、近い将来、日本国内の民間施設がイスラム教の過激派のテロリズムのターゲットになることはないだろう。アイルランド人やスリランカ人が何かを主張するために日本国内に爆弾を仕掛けることもない。どのマイノリティ集団も不平等な扱いを正すために無差別な暴力に訴えるという道を選んではいない。国内の極左は、いまさら無差別テロを行う体力も動機もない。ティモシー・マクヴェイ型のテロリズムはありうるかもしれないが、幸いなことに日本政府は極右が憎悪を抱くほど「リベラル」ではない。日本はこの分野ではいい成績を収めているのである。

 だから、2001年9月11日を境にして世界は変わったという日本人には、9月11日を境に思考と行動の様式がどのように変わったのかと問いたい。ちなみに私が受けた最も大きな影響は、事件の2日前に評をアップロードしていた、NYPDとFDNYの人々を主人公に据えたTVシリーズ『サード・ウォッチ』の続きを見る気力がなくなったということである。

2002/2/25

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