Bias

A CBS Insider Exposes How the Media Distort the News

Bias

Bernard Goldberg / Regnery Publishing / 2001/12/01

★★★

あまり真剣に読むべき本ではないが

 著者のバーナード・ゴールドバーグは、CBS Newsで長年にわたってレポーターとプロデューサーの職に携わっていた人。1996年、著者はWall Street Journal紙に"Networks Need a Reality Check"というタイトルの、アメリカのTVメディアの「リベラル・バイアス」を批判する記事を寄稿した。これがCBSの権力者ダン・ラザーの怒りを買って、著者は完全に干されてしまい、後に退職する。そんな著者が、この事件の経緯を振り返るとともに、TVメディアがいかに左傾しているかを論じている本。

 文体が幼稚で品がなく、構成にまとまりがないので、ちょっとお勧めはしかねる本である。興味深い内容はあるものの、推測可能な範囲。

 『アメリカ人はなぜメディアを信用しないのか』の項に書いたことなんだが、アメリカのTVのニュース番組に関する不満を読むと、日本に住んでいる私は「何と贅沢な!」とまず最初に思うのである。おそらく平均的な日本人は、そもそもTVのニュース(および報道一般)はフェアであるべきだという発想を持ち合わせていないだろうし、TV関係者(またジャーナリスト一般)の社会的地位を平均よりも下と見ているだろう。本書のような批判が出てきて、それが論争を巻き起こすということは、論争の両陣営にジャーナリズムとしてのTVメディアへの強い期待があることに他ならない。たとえば、日本で「右」の側から「左傾」しているとして批判されるニュース解説者は久米宏や筑紫哲也などだろうが、私は「左」側の人がこの2人を強く支持するのを見たことがない。「まあテレビの人だからね」で終わらせようとするか、木村太郎を取り上げて反撃を試みるかのどちらかになる。

 その点で、本書の著者が名指しで批判しているCBSのダン・ラザー、NBCのトム・ブロコー、ABCのピーター・ジェニングスなどは、まっとうなリベラルなジャーナリストであるというコンセンサスがやはりある。アメリカの保守主義者による批判のベースには、そのような約束が満たされていないという不満があるように思えるし、アメリカのリベラルはこれらのキャスターが批判されると弁護にまわる。ただし、本書の著者は「右翼の共和党支持者」ではない。『Who Stole Feminism?』のクリスティーナ・ホフ・ソマーズと同じく民主党支持者であることを明言している。そのようなCBSのインサイダーから「リベラル・バイアス」という言葉が出てきたことが大きな反響を呼んだわけであり、「右翼の共和党支持者」は年中これと同じことを言っている。

 ところで、アメリカのネットワークのニュース番組にリベラルなバイアスがあるという言い方にはいくぶん問題が含まれている。本書でも言及されていることだが(そしてそのことをうまく言語化できていないのが本書の欠点でもあるのだが)、アメリカのネットワークは利益重視型のビジネスになっているということはよく言われることである。本書では、"60 Minutes"、"Dateline"、"20/20"などの一般にリベラルと見なされる特集ニュース番組における人種の取り扱いについて興味深い調査を行っている。これらの番組が取り上げるニュースの中心人物は、特に視聴率の調査期間では、白人が圧倒的に多い("60 Minutes"だけは反対の傾向を示していて面白いのだが、ここでは深く突っ込まないことにする)。これらの番組の視聴者は主に白人なので、プロデューサーの側に、有色人種を取り上げると視聴率を稼げないという思惑があるためである。

 アメリカの左翼知識人はこのような文脈に沿って、アメリカのニュース報道が反リベラルの側に偏っていると批判することが少なくない。この読書メモで取り上げている人で言えば、サイード(『戦争とプロパガンダ』)とチョムスキー(『9.11』)はまさにそのことをテーマとする本を書いている。上述の『アメリカ人はなぜメディアを信用しないのか』も似たような路線である。人種差別や性差別の活動家たちも概ねニュース報道の好ましくないバイアスを非難する。

 一方で、「保守主義」に傾いているメディアは、ラジオ(トーク・レディオと呼ばれるリスナー参加型番組)とケーブル局(特にFOX)である。こちらの側の人々にとって、これらはリベラルに支配されたネットワーク(とハリウッド)に対するオルタナティブなメディアなのであり、昨今言われているTV離れは、ネットワークがリベラルの側に偏り過ぎた、または利益追求主義に走ったため、視聴者がうんざりしてこれらのオルタナティブなメディアに移った、または単にTVを見るのをやめたことの表れということになる。この文脈では、利益追求主義は、利益を追求するあまり、たとえば道徳などの価値観を軽視する「リベラル」な態度、つまり「放埒」な態度と理解される。

 本書はおそらくその大部分が9/11事件以前に書かれたもので、9/11事件とその後のメディア報道を扱っているのは1つの章のみである。在米のTVウォッチャーによる報告である『9・11(セプテンバー・イレブンス)』や、その他のリベラルな著作家の文章で繰り返し指摘されていることだが、9/11事件後にはネットワークのニュース番組までもが少なくとも一時的に「右」(と思われる方向)へと揺れた。著者はこれについてはいちおう肯定的に評価しているものの、それ以前の報道がパレスチナ問題を十分に突っ込んで扱っていなかったと苦情を述べている。ただし、この章にはとりたてて注目すべき内容はない。

 なお、個人的な考えとしては、TVニュースがリベラルの側に偏るのは悪いことではないと思う。CBSの"60 Minutes"の実話をもとにした映画『インサイダー』を見ると、やっぱりジャーナリズムはこうでなくちゃと思うわけだ。ただアメリカ合衆国の市民ではない私は、アメリカのTV番組をニュースも含めて純粋なエンタテインメントとして見ているので、面白ければどっちでもいいとは言える。ただし、クリントン政権の時期に日本が題材となるときだけは(めったに題材にならなかったが)、著者が本書で述べているプレゼンテーションのマニピュレーションの仕方をかなりうっとうしく感じたものだった。モデレート・リベラルがこれと同種の苛立ちを数多くのイシューについて感じているのだとしたら、「オルタナティブ」なメディアに逃げるのも仕方がないような気がする。

2002/3/4

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