Death of the West,The

How Dying Populations and Immigrant Invasions Imperil Our Country and Civilization

Death of the West,The

Patrick J. Buchanan / St. Martin's Press / 2001/12/12

★★★

ずいぶんと混乱しているが

 著者のパトリック・J・ブキャナンはアメリカの有名な保守主義者。1992年と1996年に共和党の大統領指名選挙に出馬し、2000年の大統領選挙では改革党(the Reform Party)から出馬して本選を戦った。CNNの"Crossfire"、NBCの"The McLaughlin Group"など、ディベート指向のTV番組(『アメリカ人はなぜメディアを信用しないのか』で批判されているタイプのもの)の常連としてメディアに露出しており、アメリカのネットワークに常時出られるていどの「保守主義者」のなかで最も右寄りと言えるだろう。これ以上右に行くと狂信的なキリスト教ファンダメンタリストとかKKKの領分に入ってしまう、という予感がするほどの「極右」とみなされている。本書は9/11事件の後に出版されたものだが、事件への言及はあまりない。

 タイトルの"The Death of the West"は「西洋の死」であり、副題が示しているように、出生率の低下と移民の増大によって、欧米先進国の伝統であった西洋文明が死につつあるという警鐘を鳴らす本である。その背後には共産主義者の陰謀がある。彼らラディカルたちが西洋文明の基盤にあったキリスト教の伝統を打ち壊したおかげで、モラルの低下が起こり、社会は悪くなった。われわれ保守主義者はこれを「文化の戦争」("cultural war")と認識して立ち上がらなくてはならない。

 とまあ、あまり真剣に読むべき本ではないが、アメリカのリベラル化に伴うバックラッシュの典型的な例として興味深く読むことができた。煽動的な文章はそれほどは悪くはなく、レトリックの使い方もそこそこ巧妙である。たとえば石原慎太郎と比べると、「知識人」という感じはする。

 なお、先進国での出生率の低下を論じる箇所では、なぜか日本も「衰退しつつある西洋文明」の一例として取り上げられている。これに限らず、どうやら著者は日本を「敵と味方」の二分法で見ると、どちらかといえば味方のように思っているようで、日本ではキリスト教の伝統が左翼によって壊されたというような事態は起こっていないことに気づいていない。また、キリスト教の伝統とは言うけれども、平均的アメリカ人よりはずっと宗教的であると思われるメキシコからの移民は敵視している。これに限らず、著者の使う論理にはおかしな点がいっぱいあり、結局は「アメリカとヨーロッパの白人」というきわめてレイシストな主張をしたがっていることが透けて見える。

 日本の保守派は「伝統ある日本文化が西洋文明によって毒されて堕落した」と主張することがあるが、著者は「西洋文明が堕落した」と言う。日本人はアメリカの対外的な活動にキリスト教文明の傲慢さを見ることがあるけれども、孤立主義者である著者によれば、これは共産主義による堕落の反映なのである。日本の保守派は戦後民主主義の流れを汲んだ「自虐史観」を日本固有の病理だと言うことがあるが、著者はアメリカの「自虐派」について日本の保守派と似たような攻撃を行っている。

 日本では、アメリカのキリスト教系の保守思想家の著作はあまり紹介されない(思想と呼ぶほどのものでもないが)。まあ、白人優越主義者の本に対する需要が日本にあるとは思えないのもたしかではあるが、いちおう目を配っておくべきだろう。アメリカと日本の間では、どちらの向きでも、リベラルの見解が過剰に交換されている。保守の見解は本質的にドメスティックなので、他の国では需要が生じないということなのだと思われる。

2002/4/1

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