少子化をのりこえたデンマーク

湯沢雍彦 / 朝日新聞社 / 2001/12/25

★★

最初に結論ありきの調査

 社会学者6人による、デンマークの社会福祉の実態調査の報告。

 まずはっきりさせておきたいのだが、デンマークは決して少子化を「のりこえ」てはいない。デンマークの合計特殊出生率は1983年に1.38という最低値に達した後に、1995年に1.82まで回復し、その後は1.7〜1.8あたりの数値で安定している。つまり依然として人口置き換え水準よりも下である。

 本書は、この出生率のリバウンドの原因がデンマークの社会福祉政策にあると決め打ちした上で、デンマーク国内のこの政策の代弁者たちの公式見解を聞いてきてまとめた、という感じの本。公式見解を知るには有益なのだろうが、ほんとうにこの政策が効いているのかという疑問への答えはない(著者自ら、この時期の出生数の増加の直接の原因は、ベビーブームの子供の世代が適齢期を迎えたことにあると記している)。また、これらの政策のネガティブな影響(と思われるもの)については、言い訳ていどのリストを記しているのみである。

 ちなみに、著者らが挙げている「デンマークの弱点」のリスト(237ページ)、(1) 離婚。離婚率は2.5前後で、ヨーロッパでは標準的だが世界的に見れば高い。また、登録されていない結婚の破綻はもっと多いと思われる。(2) 自殺。10万人あたりで22.3で、世界21か国中で4位。(3) 平均寿命はかつては相対的に高かったが、いまでは世界の20位にも入らない。(4) 犯罪。犯罪件数はヨーロッパ16か国中で2位、自動車窃盗件数は3位、殺人事件数はヨーロッパとしては平均、薬物犯罪件数はヨーロッパで3位。

 これらの「弱点」は、デンマークの福祉政策との因果関係がある可能性が高い。それは出生率の上昇との因果関係よりも強いかもしれない。なお、本書には記されていないが、デンマークは90年代に入って順調な経済成長を遂げており、失業率が歴史的な低水準(といっても5%超)にまで低下したが、その状況下でナショナリズムの方へと揺れていて、特に移民政策が保守化し、移民をターゲットとしたヘイト・クライムも起こっているようだ。だが本書の著者らは、福祉政策の恩恵を受けているハッピーな人々へのインタビューを繰り返すのみである。

 『「大崩壊」の時代』『超少子化』の項も参照。私は別に福祉政策を目の敵にしているわけではないし、自分が納めている税金の一部が、出生率の上昇を目的とした政策に使われても構わないと思っている。ただ、少子化を悪いものと見なし、それは日本における個人(特に女性)の権利が確立されていないからだ、というような論理の筋道を立てる人々は、(1) このロジックの妥当性をちゃんと検証せず、(2) 提示する政策のネガティブな側面を敢えて無視することが多いように思う。

2002/4/8

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