Dave Barry Does Japan

Dave Barry Does Japan

デイヴ・バリー / Ballantine Books / 1993/01/01

★★★

いまとなっては古いが

 著者のデイヴ・バリーは"humor writer"と呼ばれるタイプの人。本書は1992年に出版された本で、1994年に『デイヴ・バリーの日本を笑う』というタイトルで邦訳が出ている。なおペーパーバック版の中表紙には、英語のタイトルの下にでかでかと「デイブ・バリーが“日本をする”」という日本語の活字が印刷されている。「“日本をやる”」の方が適切だったとは思うが。

 著者は1991年の夏に、妻とティーンエージャーの息子を連れて、出版社の経費で、本書を書くことのみを目的として3週間の日本旅行を行った。本書がその成果ということになる。1991年は、日本経済の勢いがよく、アメリカ人が極端に自信を失っていた時期であり、著者はこの状況を踏まえて、不可思議な日本人と日本文化をおもしろおかしくアメリカ人に紹介するという態度をとっている。2002年のいまとなっては、アメリカ人も日本人も一昔前の話を読まされている気になるだろう。本書に描かれている日本人の行動はそれほど大きくは変わっていないが、その解釈のしかたが1991年当時のアメリカと日本の関係によって決定されている、と強く感じられる。

 著者のユーモア・ライターとしての基本的な姿勢は、素朴な中年アメリカ人。深遠な東洋文化はもちろん、西洋若者文化も理解できないが、そのどこが悪いという開き直りの自虐的芸風である。バブル期の日本経済とその背後にある日本人の勤勉精神などに素直に敬意を表し、多くの分野でアメリカは日本に遅れをとっていると述べつつも、この素朴なアメリカ人は、次の分野ではアメリカが確実に日本よりも進んでいると考えている。それは、(1) ユーモア、(2) スポーツ、(3) 大衆音楽、(4) ピッツアである。

 (1)のユーモアについては、落語を通訳を介して聴くという体験をもとに、アメリカのスタンダップ・コメディの方が勝っていると判断している。日本人が「アメリカン・ジョーク」という表現に込めるような観念を相対化することはない。というか、著者はまさに「アメリカン・ジョーク」を体現する人なので、しかたがない。

 (2)のスポーツについては、相撲や高校野球を見て困惑している。また、観客の反応についても困惑している。

 (3)の音楽については、原宿に足を運び、そこで目撃したリーゼント野郎たちのツイストに驚愕している。

 (4)のピッツァについては、まあ欧米人の標準的な驚き方である。インターネット上には、日本のピッツァの奇怪さを取り上げたサイトがいくつかある。たとえばThe Web's First Japanese Pizza PagePizza in JapanPizzas from the DARK SIDEなど。なおYahooにはJapanese Pizzaという独立したカテゴリが設けられている。

 (2)については、NBAとかMLBとかNFLとかセリエAとかブンデスリーガーとかが好きな日本人は、相撲はともかく、日本の野球やその他のプロ・スポーツには似たような印象を抱いているだろう。アメリカのプロスポーツやヨーロッパのサッカーをTVで見られる機会はここ10年間で急激に増えたので、スポーツ観戦に関して「非日本人的」な嗜好を持つ日本人の絶対数は格段と増えたはずである。日本のスポーツそのもののあり方はそれほど変わっていないように思われるが、私はちゃんと観察していないのでよくわからない。

 (3)については、事態は改善されていないと思われる。著者がいま日本に来たら、たぶん日本語のラップ/ヒップホップに抱腹絶倒するだろう(あるいは日本語がわからないので、神秘的なものを感じるかもしれないが)。日本人の側の、これらの「洋楽の影響を受けた」日本製音楽のとらえ方の変遷は、私にはよくわからない。私にとっても異文化なもので。

 (4)のピッツァはまあ措くとしても、かつてアメリカで寿司が流行っているという話の中で、あちらではカリフォルニア・ロールとかアボガドなどの「奇怪」なネタが使われていると話題となったことがあったが、いまでは日本人もこういう変わりネタをかなり気軽に食べるようになっている(と思うがどうか?)。日本文化の柔軟性を思わせるエピソードではある。

 全体として、「アメリカン・ジョーク」のセンスのギャグはそこそこ面白いものの、時代の制約があまりに強いため、いま読んでストレートに面白いという本ではない。ただ上に書いていることからわかるように、観念の歴史的変遷を追うための資料的価値はある。また、「勤勉な日本人」、「安全な日本社会」といった像は、今後、日本人自身も懐かしく思い出すようになる時期が来るのかもしれない。

2002/4/8

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