夜の片隅で

Simple Justice

ジョン・モーガン・ウィルソン / 早川書房 / 2002/02/15

★★

定石に則ったエンタテインメント

 原著の出版は1996年。1997年にハヤカワのポケミスとして出たものが文庫化された。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞を受賞したデビュー作。

 ゲイ(男性)の元新聞記者を主人公とするハードボイルド小説。主人公の名前がBenjamin Justiceで、シリーズ作のタイトルにはこの"Justice"が入っている。本作は、ロス・マクドナルドなどの大人しめ叙情派ハードボイルドのパターンを研究し、主人公にゲイの男性を持ってきて書いたという感じの、悪い意味での「手練れ」の小説だった。著者はTV番組の脚本やライティング関連の著作を書いてもいて、「いかにも」ということになる。

 このタイプのハードボイルド小説がロマンス小説と同じものであるということが誰の目にも鮮明になってしまったのは、ロバード・B・パーカーのスペンサー・シリーズの中盤あたりからだろうか。それ以来このジャンルは、主人公が背負うハンディキャップと主人公が活動する環境の組み合わせ問題みたいになってしまった。ロールプレイング・ゲームの主人公キャラにいくつかの特性を割り振って、シナリオを自動生成したものを読まされているような感覚に陥ることが少なくない。注目に値する作品はときどき出てくるとしても、陳腐化を避けて書き続けるのが非常に難しくなっているように思う。この読書メモで言えば、ジェイムズ・パタースンのアレックス・クロウもの(『殺人カップル』)、シリーズものではないがミッチェル・スミス(『沸点の街』)、ローレンス・ブロックのマット・スカダーもの(『皆殺し』)、リンダ・ラ・プラントのロレイン・ペイジもの(『温かな夜』)、アンドリュー・ヴァックスのバークもの(『嘘の裏側』)、必ずしもシリーズものではないがネルソン・デミル(『王者のゲーム』)などが該当する。個人的にはミッチェル・スミス(『エリー・クラインの収穫』)とリンダ・ラ・プラント(『凍てついた夜』)の陳腐化がえらく堪えた。

 本作のように主人公がゲイであるという性質を前面に押し出す小説には、ゲイの読者のマーケットを確保できるという利点があるだろう。その裏返しとして、主人公がゲイであるということをもはや作品の評価のレバレッジにできない状況が生じている。時代の変化を考えれば、いまの世の中では「KKK団員」とか「肥満者」とか「ストレートでWASPの会社役員」とかのハンディキャップを背負った人物を主人公にした方がずっと説得力のある「回復の物語」を書けそうだ。というか、そうでない怠惰な「回復の物語」はもういいよ、と思う。

2002/4/15

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