90年代SF傑作選

山岸真 / 早川書房 / 2002/03/31

★★★★

面白いものもある

 90年代のSFの中短編22作を集めたオリジナルのアンソロジー。私はSFからほぼ完全に離れてしまったので、勉強のつもりで読んでみた。感想はというと、これが英語タイトルにあるように本当に"The Best Science Fiction of the Nineties"なのだったらちょっとつらいな、というものだが、他のものにも少し手を出してみようかという気になったことはたしか。似たような状況にある人は、読んでみるといいかもしれない。以下、簡単に。

 ニール・スティーヴンソン(『Snow Crash』)の"The Great Simoleon Caper"。オフビートなポスト・サイバーパンクの小品。扱っているネタ(暗号、通貨、オフショアなど)を作者本人がよく理解していない模様。私はちなみに『The Diamond Age』も『Cryptonomicon』も途中まで読んで挫折したまま。1/5

 スティーヴン・バクスターの"Columbiad"。ヴェルヌをネタにした改変歴史もの。内輪受けの一発ネタ。バクスターの初期の長編は楽しんで読んだ記憶があるのだが。1/5

 アレステア・レナルズの"A Spy in Europa"。大きく構築された未来史の中の1短編という感じ。初めて読んで感触は悪くない。これ単独では難しいが、全体の中に置いたら映えそうだ。要注目。3/5

 ダン・シモンズ(『ダーウィンの剃刀』『エンディミオンの覚醒』『エンディミオン』)の"Flashback"。中編集『愛死』に収録済みで既読。ビジョンの広がりがないのが不満だった。いま再読すると、90年代初頭の日米の状況を強く反映させたのが戦略として間違いだったことがわかる。3/5

 コニー・ウィリスの、タイトルが長い短編。エミリー・ディキンスンを対象とした文芸批評のパスティーシュ。パスティーシュとして面白くなく、ギャグは内輪受け。1/5

 ショーン・ウィリアムズの"A Map of the Mines of Baranath"。初めて読んで好印象。視覚的なイメージの喚起力が強い。要注目。4/5

 マイク・レズニックの"Seven Views of Olduvai Gorge"。レズニックの初期の作品は面白く読んだが、途中から「モラル」を前面に押し出すようになって関心が薄れた。本作もやはり安直な感じを受ける。技法上、語り手の視点が非合理的なのが気にかかる。2/5

 ジョナサン・レセムの""Forever," Said the Duck"。面白いのだが、おそらく翻訳が邪魔をしている。しかし『Motherless Brooklyn』を途中で挫折した私に言わせてもらえれば、原著を読むのはかなりしんどい。いずれにせよ要注目。4/5

 イアン・R・マクラウドの"The Family Football"。初めて読んで好印象。ブラッドベリ風の非常に美しい作品。反動的という気もするが、要注目。5/5

 デヴィッド・ブリンの"What Continues... and What Fails..."。この人の長編はデビュー作から追いかけている。他人に勧めるか、というと難しいところ。本作は壮大なビジョンを見せるハードSFとして手堅いのだが、個人的には「こういうのはもういい」という感じ。あくまでも個人的に。3/5

 アレン・スティールの"Shepherd Moon"。印象に残っていないが、『80年代SF傑作選』にも作品が収録されていたとのこと。本作だけでは評価不可能。1/5

 ブルース・スターリングの"Cyberpunk in the Nineties"。日本語タイトルが「80年代サイバーパンク終結宣言」となっているエッセイ/評論。私はサイバーパンク自体を好きになれなかったので、どうでもいい。1/5

 テリー・ピッスンの"macs"。昔「ショート・ショート」と言われていたような楽しい作品。初めて読んで好印象。要注目。5/5

 ロバート・J・ソウヤーの"You See But You Do Not Observe"。内輪受けのネタの改変歴史もの。『ターミナル・エクスペリメント』を読んでつまらなかったので他に手を出していない。本作を読んでも安易という印象は変わらなかった。1/5

 テッド・チャンの"Understand"。知能向上もの。難しい題材に想像力が追いついていない。野心的なのかもしれないし、無謀なのかもしれない。2/5

 エスター・M・フリーズナーの"A Birthday"。ん〜、フェミニストSFなのか? 翻訳でなければ、もうちょっと印象が良かったかもしれない。2/5

 イアン・マクドナルドの"Floating Dogs"。印象に残っていないが、『80年代SF傑作選』にも作品が収録されていたとのこと。これは翻訳のせいで判断不能。本当に人気があるというのなら、きっと文章がいいんだろう、と思うしかない。2/5

 ジャック・マクデヴィットの"Standard Candles"。SFというラベルが不適切に思える、普通のショート・ストーリー。要注目。4/5

 ジェイムズ・アラン・ガードナーの"Three Hearings on the Existence of Snakes in the Human Bloodstream"。改変歴史もの。スタイルの実験小説でもあり、アイデアは非常に面白い。要注目。5/5

 グレッグ・イーガン(『順列都市』)の"Luminous"。この人は、ハードSFの備えているべき整合性に関する観念が、私の持っている観念とちょっとずれているという感じがする。本作でもネタの扱い方がちょっと白けた。3次元はまずいだろう。3/5

 ロバート・リードの"Coffins"。アイデアも構成も50年前の水準。判断不能。2/5

 ナンシー・クレスの"Dancing on Air"。SFというよりも、メディカル・スリラーなどのラベルを付けて売られている現代的エンタテインメントに近い(それらの分野では中編のマーケットがないという事情はあるかもしれない)。本作はエンタテインメント小説一般の中に置くと大して目立つものではないが、このアンソロジーの中では現代社会にとって最もrelevantなトピックを最も効果的に提示しえているという印象を受ける。80年代に「SF」のジャンルから離れて「ミステリ」のジャンルのものを読むようになった人は、このrelevanceを求めたのだと思う。少なくとも私の周囲のSF/ミステリ愛好者はだいたいその趣旨のことを言っていた。本作そのものはあまり賞賛できないが、他の作品、特に長編を読んでみたい。要注目。3/5

2002/4/22

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