文章読本さん江

斎藤美奈子 / 筑摩書房 / 2002/02/05

★★★

発想が古い

 世の中の「文章読本」を嘲笑し、明治時代からの「綴り方」や「読書感想文」や「カルチャー・スクール」といった作文教育の変遷を紹介する。

 「死者に鞭打つ」という感じで、少しばかりしんどい。「文章読本」が体現している権威主義を、80年代を出自とするポップ・カルチャーの視点で相対化するという発想は10年以上古い。金井美恵子の『文章教室』が出版されたのは1985年である。また、これらの権威が死んでからの進展については、最後の方で言い訳ていどに触れるだけで思索が浅い。

 本書ではほとんど触れられていない、私が重要だと思っている1980年代末以降のトピックを2つ書いておく。1つは、『理科系の作文技術』系統の本格派と言ってよい、アメリカの英語のライティング・テクニックをベースにした「テクニカル・ライティング」、「アカデミック・ライティング」などである。結論を先に持ってくる、パラグラフの先頭にはトピック・センテンスを置く、パラグラフ内ではその説明を行う、最後に結論を述べてまとめる、などの原理を、英語の文章や学術論文だけでなく、日本語の文章に適用するアプローチだ。もう1つはWeb、そしてその前身の「パソコン通信」上の文章。依然として出版物を模倣する文章も多いけれども、それを敢えて無視する実験は広く行われているし、最初から出版物に何の権威も感じずに作文する人も少なからずいるように思う。

 それでまあ、最先端を行く人間にとっては、この2つを克服することが課題となる。著者の嘲笑の対象となっている数々の「文章読本」は誰も権威だと思っていないので、克服しようという気も起こらないのである。

2002/4/30

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