探偵小説論序説

笠井潔 / 光文社 / 2002/03/25

★★

いささか退屈な文芸評論

 古典的な「探偵小説」を扱った文芸評論。1989年〜1995年に書かれた文章をまとめたもの。

 私は本書のいい読者ではないと思う。冒頭の「序」に次のような文章があるのを見て笑ってしまったからだ(10ページ)。

日本の探偵小説は一九六〇、七〇年代にいったん退潮を余儀なくされるが、一九八〇年代の末には綾辻行人『十角館の殺人』(一九八七年)を象徴的な起点とする新たな探偵小説ムーヴメント(第三の波)が開始され、九〇年代を通じてジャンル的な活況を呈した。戦後本格に続いて現代本格の日本における画期的成功は、「高度に形式化した探偵小説のパターン」の創造性と生命力を事実として証明するものである。

 上の文章の内容は真なのかもしれない。しかし、このいわゆる「新本格」の流行以降、日本のミステリ小説全般が大人の読むに耐えないものになったことは疑いえない。これ以前は、いわゆる「海外ミステリ」と「日本製ミステリ」の読者層はいまほど分断されていなかったように思う(これはSFについても言えることだ)。ジャンル内では画期的成功だったかもしれないが、外から見ると大失敗である。

 本書は「現象学」などのツールを使った古典的探偵小説の文芸評論。私は、この人の矢吹駆シリーズは素晴らしいと思うけれども、それだけに『ヴァンパイヤー戦争』などの「ノベルズ」ものは読者に対する侮辱だと思うし、評論家としては言葉のゲームをやっているようにしか見えない(というか評論はほとんど読んでいない)。私的には村上龍や高村薫やスティーヴン・キングと似たニッチにある。「なんで高級志向の小説だけに絞らないのか。そうすれば化けの皮も剥がれないのに」ということだ。まあいろいろと事情はあるのだろう。

 なお、日本の「新本格」を読まない者からすると、本書で扱っているような古典的な探偵小説は死んで久しいし、いまに至るまで一度も生き返っていない。だから、「新本格」の危機にドライブされて書かれたという本書とは、その根本の問題意識を共有することができなかった。

2002/4/30

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