派兵の代償

A Soldier's Duty

トマス・E・リックス / 早川書房 / 2002/04/30

★★★★

素人っぽいが興味深い

 著者は『ワシントン・ポスト』の国防総省担当記者。本書はフィクションのデビュー作で、ノンフィクションに『Making the Corps』という作品がある。

 舞台は近未来の2004年。米大統領は緊張が高まりつつあったアフガニスタンに陸軍を派遣することを決定する。これを政治的な日和見主義であると考える軍人たちが、米国内で反抗を始める。

 9.11事件の前に書かれて出版されたことが相当なダメージになっている本だ(発行は2001年5月)。著者は、アメリカがアフガニスタンに兵を送るという設定を、ちょっとひねった意外なストーリーとして書いたのだと思うが、これは小説よりもはるかに派手な形で現実になってしまった。もっと重大なのは、軍隊と政府の関係である。本書はアフガニスタンへの派兵を物語のきっかけとしているものの、ストーリーのほとんどはペンタゴンで進行する軍隊内政治小説といってよい。そしてその根底にあるテーマは、大統領が政治的な人気取りのために、軍事上の戦略を配慮せずに海外派兵を行うという、『War in a Time of Peace』のテーマであったクリントン大統領タイプの悪政と、それに対する軍人の反感である。この緊張関係は、9.11事件をきっかけに大幅に改善されたといってよく、再び衝突が起こるとしても、それはまた違った形で感じられるようになるだろう。まことに近未来小説はリスキーである。

 国防総省担当記者だけあって、軍隊内の政治力学の描写が非常にリアリスティックで面白い。それ以外の要素、たとえばロマンスの描写やサスペンスの盛り上げ方は素人っぽく、正直言ってお勧めしかねるのだが、軍隊内ポリティカル・スリラーが好きな人は十分に楽しめるだろう。特に、主要登場人物をうまく配置して、ペンタゴンの上層部とホワイトハウスの緊張関係と、少佐レベルの軍人官僚の生態という2つのテーマを追っているところが面白い。

 もう1つ興味深いのは、主人公の1人に女性を持ってきて、現代的な軍隊内での女性士官の役割に焦点を当てているところ。このジャンルではハロルド・コイルの『軍事介入』がいまでも強く印象に残っている。他に、海軍の女性艦長を主人公としたジェイムズ・H・コッブのシリーズもの(『シーファイター全艇発進』など)や、米国領土内での米中戦争を描いたエリック・L・ハリーの『米本土決戦』などが思い浮かぶ。

 なお、翻訳が不安。

2002/5/10

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