理想なき出版

Business of Books,The

アンドレ・シフリン / 柏書房 / 2002/05/30

★★★

前世紀の遺物ということで

 著者のアンドレ・シフリンは長らくPantheon Booksの編集者だったが、1990年に退職し、The New Press社を設立した。本書はそのような著者が、1960年代頃から現在までのアメリカの出版界の変遷を記した回顧録である。

 簡単にまとめれば、80年代頃からの企業合併、寡占化、市場指向により、日本で言うところの「良心的出版物」が発行できなくなったことを嘆いている(The New Press社は、各種の財団から援助を受けて存続している)。日本の出版業界が、これからたどるかもしれない道であり、この手の話に関心のある人は参考資料として目を通しておくといいかもしれない。ただし、本書は著者の自己正当化が痛々しい、かなり下品な内幕暴露本である。

 著者はメディアとしてのインターネットの限界について、次のように述べる(208ページ)。

……しかしながら、現在のオンラインが扱う大量の情報と、参入が極めて容易な仕組みから、明らかな問題も生じている。情報が信頼できるかどうかは、誰にもわからないのである。まさにこの点に関しては、出版には強みがある。何といっても、出版関係者は、何を出版するかを選択し、然るべき基準に従って素材を選び、編集をして、宣伝・配布をしているのであり、印刷物にも名前を記して読者に保証と判断の根拠を提供しているのである。

 この背後には、著者が扱ってきた作家たち、たとえばスタッズ・ターケル、マルグリット・デュラス、ジョン・ダワー、ルーシー・リパード、エイダ・ルイーズ・ハクスタブル、ミシェル・フーコーら(225ページの、著者に義理立てしてThe New Pressから本を出した作家たちを例として取り上げた)の読者たちは、かつてのPantheonやいまのThe New Pressの名前が本のカバーに印刷されていなければ、これらの作家たちの本が読むに値するかどうかを自分では判断できないという考え方がある。これらの作家たちの本は(このリストの中ではたぶんターケルと、もしかしたらダワーを除けば)せいぜい数千または数万部しか売れないわけだが、2億人いるアメリカ人の中で、これらの作家たちの本を読むたった数千または数万人の人たちで"さえ"、自分で無印のテキストの価値を判断することができないと言っているわけである。

 この考え方は、正しいのかもしれない。と言ってしまうと話が続かなくなるんだがね。それでいいんだろうか。

2002/6/17

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