お言葉ですが… (6) イチレツランパン破裂して

高島俊男 / 文藝春秋 / 2002/06/15

★★★★

面白くなっている

 『週刊文春』に連載されている「お言葉ですが…」というエッセイを集めたものの6巻目。4巻目が『お言葉ですが… (4)猿も休暇の巻』で、5巻目の『キライなことば勢揃い』はスキップした。本書を買う気になったのは、『漢字と日本人』が良かったせいである。

 このシリーズは、以前と比べると面白くなっているという印象がある。特に、雑誌への掲載後の読者とのやり取りを収めた追記には、老人の茶飲み話を末席で聞いているような楽しみ方ができるものが多い。まったくrelevantでないだけに、ふんふんと頷いて聞いていられる。

 言葉の問題に関連して、童謡「背くらべ」の「ちまきたべたべにいさんが、はかってくれた背のたけ」の「背のたけ」をどう発音するかという問題をめぐる項が面白かった(103ページ)。これは「せえのたけ」が正しいのだが、「せいのたけ」と「い」の部分をはっきりと発音しないと気持ち悪いという人がいる、ということである。106ページから引用。

かな表記を発音表記と思うのは基本的まちがい、と上に言ったが、実際にはそう思っている人が多い。特に戦後、発音にちかづけた新かなづかいがおこなわれて以来、多くなったようだ。そうすると、口頭語が文字表記にひっぱられる。

 『英語発音は日本語でできる』という本は、日本人の英語の発音の悪さと絡めて、発音が文字表記にひっぱられてもいいように、カタカナの体系を変えようという提案をしていた。つまり、英語の発音が、カタカナ表記に引っ張られているという話である。一方、こちらは日本語の発音がかな表記に引っ張られているという話。上の引用部は、新かなづかい以前には、表記と発音に違いがありうるという意識が強くあったということを示唆している。

 今後に目を向けると、日本語のアルファベット表記が日本語の発音にどう影響を与えるのかが興味深い。日本語のアルファベット表記には正書法がない(または複数存在する)が、固有名詞の場合は、本人が認定したものが正しい表記となる。たとえば、任天堂の表記は"Nintendo"であり、"Nintendou"ではない(Googleで検索すると、"nintendo"のスペルミスではないかと示唆される。この文字列でヒットするサイトは150件ほどあるが、ほとんどが日本のサイト(またはそれへの言及)である)。このスペルが日本人の間に十分に浸透すれば、カタカナの「ニンテンドウ」に引っ張られて「ウ」を発音する人は現れないかもしれない。

 しかし、これは物凄く皮肉な話なのだが、"Nintendo"という文字列は、(英語を含む)一部の言語圏では「ニンテンドウ」と最後に「ウ」の音を付けて発音されることが多いのではないかと思われる。日本人が「任天堂」を普通に発音するときの「ニンテンドー」は、たとえば英語の場合には"Nintendoh"のように表記した方が伝えやすいかもしれない。

2002/6/28

TRCの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ