インフォアーツ論

ネットワーク的知性とはなにか?

野村一夫 / 洋泉社 / 2003/01/22

★★

教育者ゆえの限界か

 タイトルにある「インフォアーツ」とは、情報技術すなわちインフォテックに偏りがちな教育を批判する意図が込められた著者の造語。情報にかかわるリベラル・アーツ。リテラシーだけでなく、インターネット上のコミュニティ内での身の処し方みたいなものも含まれている。

 理想的な人間像を設定し、その鋳型に生徒をはめていく教育者の立場からすると、本書に書かれているような考え方になっていくのはしかないのかもしれないとは思う。「インターネット上の情報をむやみに信用してはいけませんよ」とか、「掲示板で暴れるのはよくないですよ」などと特に教えなくてはならないような大学生が大勢いるのだとしたら、そういうことはやっぱり教えておいた方がいい。

 ただ、本書で著者が設定している理想的な人間像の具体的なあり方についてはいろいろと異論が出てくるだろう。またその理想像の形成の基盤となった著者の体験はきわめて限られたものである。たとえば著者は、Webの爆発的成長にともなって匿名で書かれるテキストが増大していることを苦々しく思い、その前の時代のメーリングリストで行われていた実名制を懐かしく思っている。しかし、あれは研究者が仕事上の情報交換に使っていた道具なのであり、当時もいまもそのような目的での情報交換は実名制で行われているに決まっている。一方、そういう「仕事の道具」から離れたところでのテキストは、かつてもいまも、実名で書かれたものの方が匿名で書かれたものよりも質が高いとは言えない。というかもちろん、インターネットとWebの前の「パソコン通信」の時代から、実名と匿名の境界線はすでに融解していたのであり、この手の議論に「実名/匿名」という対立軸を持ってくること自体がバカバカしかったのである。

 本書を読んで、「古い時代の人が、新しい流れについていけないでいるだけだ」と思った人もいるかもしれないが、これは別に「古さ」の問題ではない。昔から、こういう人とこうでない人がいたのだ、ということを強調しておきたい。

2003/4/27

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