ファイアハウス

Firehouse

デヴィッド・ハルバースタム / 集英社 / 2003/02/28

★★★★

あまりに巧妙すぎて

 9/11事件の際に出動した13人のうち12人が死亡した、FDNYの第40ポンプ車隊と第35はしご車隊が所属する第40/35署について書かれたノンフィクション。この読書メモでは、以前に『9月11日の英雄たち』という本を取り上げている。

 こういうテーマでノンフィクションを書く、という課題に対する100点満点の答えという印象だった。9/11事件の背景には触れず、消防士たちのプライベートな生活のみに焦点を当てる。彼らを特に英雄としては描かず、ときには欠点も率直に記述する。ドラマチックに盛り上げないように注意して、淡々とした記述に終始する。

 おそらく9/11事件と消防士の関係を扱ったノンフィクションの中では最高作として長く記憶されるだけでなく、ノンフィクションの書き方の教科書としても使われるかもしれない完成度の高さである。しかし、私は、ハルバースタムが得意とするスポーツ・ノンフィクションとの類似性ばかりが印象に残って、少々落ち着かない気分になった。

 著者の視点がどうしても漏れ出てしまっている『War in a Time of Peace』のような政治ものの方が安心して読めることに気づいた。本書を読んでいるときの心境は、アン・リーの映画、たとえば『楽園をください』を見ているときの心境に似ている。1つ1つが小憎らしいほど完璧なので、「いったいなぜそこまでするの? そもそもアン・リーさん、あなたはなんでまたアメリカ合衆国の南北戦争の映画なんて作ろうと思ったの?」と訊いてみたくなるのである。「単に、それができたから」という答えが返ってきても別に問題はないのだが。

2003/4/27

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