まだまだまともな日本

Die Deutschen schreien

フロリアン・クルマス / 文藝春秋 / 2002/12/10

★★★★

ドイツの憂国論

 著者のフロリアン・クルマスは中央大学文学部に勤めて12年間日本に滞在した人。日本にいる間は日本人と日本社会のモラルの低下を嘆いていたが、久しぶりにドイツに帰ってあらびっくり、母国の方がずっとひどいことになっていた。というわけで、本書は書店でよくみかける「外国暮らしから帰ってきた人による外国賞讃本」のドイツ版である。賞讃の対象となっているのは日本。amazon.deのページにある表紙写真はなかなかインパクトがある。

 著者のドイツ社会に対する批判は、基本的にはフランシス・フクヤマの『「大崩壊」の時代』に書かれている事象に対するものである。アメリカとヨーロッパ社会において社会秩序が崩壊しており、日本(や韓国)はかろうじて留まっているということだ。

 ドイツのサービスの質の低さに触れて、今後の消費社会においてはサービスが重要なのであり、ここを強化しないと消費が伸びないというようなことを言っている。日本では余分なサービスが価格を押し上げていることが批判されることが多いことは著者も百も承知であろう。このように、ドイツ人読者が食いつきやすい内容にするために、美味しいところをつまみぐいしているという印象があちこちにある。

 訳者あとがきには「そもそもクルマスは、白人、大学教授、そして日本語ができるという、特権的な立場で日本に住んでいたわけで、日本の社会がすべての外国人にとって同じように心地よいわけではない」とあるが、これは的を射ているだけでなく、おそらく本書に描かれている著者の心情の多くには、著者が日本にいたときの特権的な立場を失い、「ドイツ人のなかのただの1人のドイツ人」になったということが大きく影響しているだろうと推測する。

 とはいえ、いろいろと面白い点がある楽しい読み物であることは事実。日本人が大日本帝国の侵略行為を現代にまで引きずっていないことを、ナチスの行為をいまも引きずっているドイツ人と比べて、良いことだと示唆している部分(235ページ)なんかは刺激的である。しかもこれはドイツと日本の比較ではなく、ドイツよりも外国人に対してリベラルなオランダを論じる箇所で、オランダと日本の類似性という文脈で出てくるのだ。ドイツ人のこだわりは「ドイツ観念論」というような言葉で表現されてしまう。

2003/4/27

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