サイバー戦争

Society of the Mind

エリック・L・ハリー / 二見書房 / 98/07/31

★★★★★

粗削りではあるが、まぎれもない傑作だ

 大傑作の『最終戦争』と『全面戦争』を書いたエリック・L・ハリーの、なんと、近未来SFもの。含蓄の深い原題なのに(しかもミンスキー宛ての謝辞があるというのに)情けない日本語タイトルになっている。

 この人が人工知能を扱った近未来SFものを書いているということを知って不安と期待を同時に感じたのだが、もっと信頼すべきだった。いろいろと問題はあるのだが、前2作に現れていたいくつかの特徴がまぎれもなくこの小説にも見える。登場人物が基本的に善人であること。事態が予想外の展開を示すこと。そして何よりも、基本的に、ものをよく考えていることである。

 登場人物の善人性について。人工知能を作り出したジョセフ・グレイの周囲に集う重要人物たち(会議に出席する人々)はいずれも善人である。特にフィラトフ(最初にコンピュータ・システムを見せてまわる男)とホプレンツ(保安責任者)の二人が善人として描かれることに注目したい。普通だったらそう描かれないかもしれないタイプの人々である。といいながら、必ずしもその設定がうまく活かされていないのが歯がゆいのだが。それよりもこの小説で重要なのは、コンピュータ(はじめは名前が付けられていないという設定が、著者の頭の良さを示している)とロボット(特に独立型のタイプ8)が善人だということだ。前の2作でもそうだったが、基本的にハリーの小説では善意と悪意ではなく、善意どうしのぶつかり合いからコンフリクトが生まれる。

 予想外の展開について。舞台となる島で起こるもろもろの事件の予想のできなさは相変わらずだ。

 ものを考えていること。人工知能とユーザー・インターフェイスという2つの問題について、ここまでちゃんと考えているSF小説は珍しい。といいながら、SF小説をそれほど読んでいないので断言はできないのだけれども。

 読んでいる途中、マイケル・クライトンを思い出した。事件が島で起こるという点では『ジュラシック・パーク』に似ており、またバーチャル・リアリティ体験という点ではタイトルを忘れたセクシャル・ハラスメントものを思い起こさせる。そして、この2つの小説に感じた不満が、この本では完全に解消されている。

 とはいいながら、やはり小説としていろいろと問題はあるな。これ単独で読むと、「ストーリーの流れが乱れている」という感じを受ける人がいるだろう。弁護するならば、これはハリーが書く小説の、むしろ優れた要素の1つなのである。これがSF小説というジャンルの中で使われたときに、あまりうまく機能しなかったと言うべきだろうか。「人間が描けていない」という感じを受ける人がいるだろう。弁護するならば、ハリーはそういうテクニックを超越しているのである。というか、そう思っていたんだが、この小説では個々の人物(主人公の心理学者、創造主であるジョセフ・グレイ、その周囲の人々)の抱く「考え」に重点が置かれる構造になっているため、上記のテクニックの不在がネガティブに働いたと言うべきなんだろう。しかし、コンピュータ(「ジーナ」)とか、個々のロボットの描き方は素晴らしい。彼の軍事スリラーでは、登場人物たちがこのように描かれているのだ。

 まあ、そのような「欠点」は多々あるにせよ、主題である人工知能、知識、ユーザー・インターフェイスなどのSF的ガジェットを扱う手つきは非常にしっかりしている。そのことだけでも、この本はたたえるに値するだろう。

1998/7/21

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