FBI神話の崩壊

Tainting Evidence

ジョン・F・ケリー、フィリップ・K・ワーン / 原書房 / 98/08/05

★★★★

FBI犯罪科学研究所の驚くべき実態を暴くレポート

 FBIの犯罪科学研究所で爆発物の分析に関わっていたフレデリック・ホワイトハーストは、FBIの「科学的調査」の杜撰さに関して内部からの告発を行い、現在は停職処分を受けている。しかし、この告発の影響を受けて司法調の監察長官局が18か月にわたって内部調査を行い、その結果が1997年4月にIGレポートの形で発表された。本書は、このレポートの内容をベースに、FBIの犯罪科学研究所の杜撰さがどのようなインパクトを与えているかを分析している。

 第2章「お手上げだったユナボマー事件」では、一連のユナボマーによる爆弾事件の証拠が適切に扱われていなかったために、逮捕されたカジンスキーを、特に昔の事件では、ちゃんと有罪にできないかもしれないと述べている。

 第3章「VANPAC」では、公民権運動に好意的な弁護士や判事をターゲットにした郵便爆弾の事件が扱われている。この事件ウォルター・リロイ・ムーディという男が逮捕され、有罪判決(死刑)を受けたが、FBIによる捜査は、最初からムーディを犯人と決めつけておいて、そこから逆行して「科学的証拠」を捏造するというようなものだった。証拠はきわめて薄弱なので、ムーディは冤罪の犠牲者かもしれない。

 第4章「ルービー・リッジ事件」では、1992年にアイダホ州のルービー・リッジという森林地帯で起こった、ある家族とFBI捜査官たちの間での撃ち合い事件を扱っている。ちなみにこの事件の発生のしかたや基本的な構図は、『人質』によく似ている。おそらくあの小説は、この事件からアイデアを得たものだろう。この事件では、FBI捜査官が一家のうちの少年と母親を射殺してしまったので、その発砲行為が正当だったかどうかという点が問題になったが、FBIの事後調査が杜撰だったために発砲の前後の事実関係がつかめず、またおそらくFBI側に不利な証拠を意図的に隠蔽した形跡があるということが指摘されている。

 第5章「世界貿易センタービル爆破事件の真相」では、ニューヨークの世界貿易センタービルの爆破事件で逮捕され、有罪判決を受けたアラブ人たちが、冤罪の犠牲者だろうと示唆している。この件でもやはりFBI側の思いこみが先にあって、適切な証拠がない。

 第6章「オクラホマシティ」。オクラホマシティの連邦政府ビルの爆破事件で有罪判決を受けたティモシー・マクヴェイも、やはり冤罪であると示唆されている。

 第7章「O・J・シンプソン」。この事件はFBIとは直接の関係はないが、ロサンゼルス市警の研究所が犯した過ちがFBIのそれとそっくりであることを指摘している。また、問題の焦点の1つとなったDNA鑑定について、このテクニックを主導してきたFBI犯罪科学研究所には、自分で誇っているような権威はないということを、近年のDNA鑑定に関係する論争を紹介することで指摘している。

 いずれも有名な事件であるが、こういう有名な事件でこれだけのボロが出るとすれば、それほど有名でない事件ではどれほどのミスが犯されているか見当もつかない。しかし逆に、科学的調査に不手際があったとしても、それがすぐに冤罪を意味するわけではないのはもちろんである。自白偏重は明らかによくないが、たぶん物的証拠重視との間のどこかで適切なバランスが取られるのだろう。

 FBIに限らず、アメリカの公的機関の内幕暴露ものは、フィクションをつねに上まわるバカバカしさに満ちあふれたものが多い。ティモシー・マクヴェイの衣服を食料品の袋に詰めて輸送し、研究室の床に放置したなんて、小説のプロットとしては落第だろう。

1998/8/7

 『American Terrorist』は、オクラホマシティの連邦政府ビルの爆破事件のティモシー・マクヴェイの伝記。本書での冤罪説の根拠(服に付着していた爆発物)については、実に皮肉な結末となった。なおこの本には、「ユナボマー」のカジンスキーが著者宛てに書いた長文の手紙が掲載されている。刑務所で同じ棟に収容されていたマクヴェイについての印象を報告しているのである。

 O・J・シンプソン事件については、陪審制を称賛する『O.J.シンプソンはなぜ無罪になったか』という本がある。ただしあまり良い本ではない。『指紋捜査官』では日本における科学的捜査の一端をかいまみることができる。意外にしっかりしているという印象があった。

2001/5/31

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