農人日記

秋山豊寛 / 新潮社 / 98/07/15

★★★

著者の微妙な立場に思いをはせざるをえない

 「日本人初の宇宙飛行士」である著者は、TBSを退職し、山奥に引っ込んで有機農業を始めた。その最初の二年間のことを綴った日記。小説新潮に1996年5月号から1998年4月号まで連載された『にわか農民奮戦記』をまとめたもの。

 この人は農業を始めるにあたって、いろいろと準備をしていたらしく、農業への移行はかなりスムーズに進んだように見える。というよりも、TBSの社員であり、日本人初の宇宙飛行士であったという立場をうまく利用したという感じだ。その意味では、普通の日本人が農業に転身するときの一番難しい諸要素はすっぽりと抜け落ちていると思われる。また、この人は最初から有機農業を行っている。その意味では、通常の農業から有機農業に転身するときの問題もすっぽりと抜け落ちている。まあそういうわけで、いろいろと難しい。

 ひとつ興味深かったのは、畑を荒らすイノシシの一家に対する著者の感情である。自分の畑を荒らされることから生じる憎しみの感情をまったく抑えずに描写している。もちろん、イノシシが畑を荒らすのは人間が悪いわけで、著者はそんなことを百も承知だと思うが、それにもかかわらずこれだけの憎しみを描写されると、事態はやはり複雑だと思わざるをえない。でも、そういうところに、この人が本当に「農人」になったんだということが見て取れるわけなので。

1998/9/6

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