デス・ゾーン8848M

エヴェレスト大量遭難の真実

The Climb

アナトリ・ブクレーエフ、G・ウェストン・デウォルト / 角川書店 / 98/08/31

★★★★★

ブクレーエフの遺書とでも言うべき本

 1996年5月に起こったエヴェレストでの大量遭難に関するノンフィクション。著者のアナトリ・ブクレーエフはフィッシャー隊のガイドを務めた人物。この本の刊行直後、1997年にアンナプルナで雪崩にあって遭難死した。共著者のG・ウェストン・デウォルトはライター、映像作家。

 ホール隊に参加していたジョン・クラカワーによる『空へ』では、著者のブクレーエフはいくぶん批判的に書かれていた。ガイドとしての責務をちゃんと果たさなかったということを示唆する記述があった。ブクレーエフは、本書で、事故に至るまでの経緯を詳しく語ることで、クラカワーを含む批判者に対して反論しようとしている。その意図は十分に達せられたというべきだろう。いずれにせよ、当日のうちにテントから二度も嵐の中に出ていって、動けなくなっていた人を何人も救出したことは事実である。そのとき、シェルパも含めて、同行できた、あるいは同行しようとした人が他に一人もいなかったということを考えると、それがとてつもないことだったことは簡単にわかる。

 その他に、酸素ボンベを調達する苦労なども含めて、登山隊が直面する苦労が、(クラカワーのように客の側ではなく)スタッフの側から詳しく描かれていて興味深い。

 最近、IMAXシアターでIMAXの撮影隊が撮った映画『エヴェレスト』が公開された。この記録映画には、遭難したロブ・ホールと撮影隊が最後の無線連絡を交わすシーンも出てくる。吹き替えがどうしようもなくて映画をだいなしにしているけれども、エヴェレストの美しい風景の映像は見事である。特に興味深かったのは、山頂付近と思われる斜面を隊員が登るシーンだった。あの高度になって、人間がどれほどゆっくりとしか歩けなくなるのかがよくわかり、別に1996年5月に限らないけれども、エヴェレストの頂上を目指す人々がどれほどの試練に直面するのかが、ほんの少しだけわかったような気がする。『空へ』や、この『デス・ゾーン8848M』を読んだ人はぜひこの映画もみるべきだとお勧めしておこう。ただし、ヘッドセットを借りてオリジナル音声を聴くこと。それでも日本語のナレーションがうるさすぎて耳に入ってくるのは覚悟しておかなければならない。

1998/9/16

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