大統領執務室

裸のクリントン政権

The Agenda

ボブ・ウッドワード / 文藝春秋 / 94/11/01

★★★★

圧倒的な取材力とていねいな文章

 ビル・クリントンが大統領選に出馬してから、大統領になって一年目が過ぎる頃までを、おそろしいほどのディテールで描いた傑作。歴史がどういう判断を下すのかはわからないが、いまのところ、この頃クリントンの周囲にいたスタッフは、ホワイトハウスでの仕事をするような能力のない「素人」だったとされる。その素人たちは、いまではマス・メディアでコメンテータとして大活躍しているわけだが、その腰の軽さを見ていると、たしかに人選がまずかったのかなと思えないでもない。

 この本が出たあと、クリントン大統領が開く会議でのスタッフたちの行動が変化したという(アメリカ人はなぜメディアを信用しないのかによる)。この会議がいつ本に描かれるかわからないということと、あともう1つ、自分がこの会議についてのちのちは本を書くかもしれないということが頭から離れなくなったというわけだ。それほどまでに、この『大統領執務室』にはインパクトがあったのだろう。ボブ・ウッドワードはたしかにこのあたりに来て、(前作の『司令官たち』を含めて)再び大きな仕事をしているように思える。

 この本の面白いところは、当時問題になっていたスキャンダル(ジェニファー・フラワーズの件など)にいっさい触れず、クリントンの政策立案過程(と呼んでいいのか、これを)に集中している点にある。モニカ・ルインスキー事件で、メディアが大統領のプライベートな話題を扱いすぎるという批判が生じたとき、アメリカ国民の多くは、大統領の職務とプライベートな生活は分離して考えるべきだと考え(これは私個人の考えでは、単にメディアの浮かれ具合に対する反作用なのだが)、かえって支持率が上昇した。しかし、この『大統領執務室』を読んで、果たしてクリントンがちゃんと職務を遂行していると考えることは可能なのだろうか? 実際、二期目に入って、クリントンはずっと大統領らしくなったとされる。この本でこれほど問題となっている巨額な赤字が、今年度で文字どおりゼロになるというのは驚異的なことだ。しかしこれはクリントンの前の共和党政権(もっぱらレーガンか?)が播いた種が芽を出したと考えるべきなのだろう。アメリカのジャーナリズムは、クリントンの任期が終わった段階で、もう1冊、この『大統領執務室』のような本を生み出す必要がある。

1998/3/31

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