弁護

The Defense

D・W・バッファ / 文藝春秋 / 98/09/25

★★★

理屈先行型

 著者は弁護士。小説は本書が初めてらしい。

 主人公は刑事事件を専門とする法廷弁護士。弁護人と検事が、被告人に対していだく主観的な印象を、陪審制の裁判という手続きとどのようにreconcileするかという問題を扱っている。

 素人が書いた本という感じがする。スコット・トゥローの『推定無罪』を思い出した。トゥローの場合は、その後に驚くほどの成長を見せて素晴らしい小説家になっていったが、この人は今後どうなるだろうか。

 ちなみに素人っぽさがどういう点に現れているかということの指摘。この本には大きなトリックが1つあるのだが、そのトリックが、仕掛けられた瞬間にほぼ見えてしまうのである。そのトリックは本の進行に合わせて強化されていくのだが、その仕組みもばればれ。なぜそのトリックが見えてしまうかというと、この本のテーマ上、それ以外の可能性が考えられない、からである。だから、この本は最初から最後まで意外なことが起こらない。きわめて平板な印象を与える。まあそれに、この本のテーマである倫理の問題は、リーガル・サスペンスの中ではすでに古すぎるテーマであり、そうとうな仕掛けを考えないと興醒めということになるわけで、それだけの能力がこの著者にはまだないということだろう。繰り返すが、トゥローはそのような能力を身に着けていったきわめて珍しい例である。

1998/9/28

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