食品汚染がヒトを襲う

O157からスーパーサルモネラまで

Spoiled

ニコルズ・フォックス / 草思社 / 98/09/01

★★★★

迫力のあるレポート

 食品由来感染症(foodborne diseases)に関するレポート。病原性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターなど、さまざまな病原体を扱っている。また、第10章ではBSE/CJDにも触れている。

 訳者あとがきによると、「アメリカの行政に関する部分」など、原書の一部を省略しているとのこと。これはたぶん面白いはずなのに、なぜ省略するのか。日本の読者になじまない、みたいな態度はもう古いということがわからないのだろうか。

 記述は全般にまとまっておらず、散漫な印象があるけれども、内容が内容であるだけに迫力がある。

 286ページあたりから、1996年の日本におけるO157H7の集団感染に関する記述がある。興味深い記述(287ページ)。

一九九六年の大規模な集団食中毒では、日本の保健当局は、感染源として一つの食品を指摘し、そのあとこんどはべつの食品が関係ありと発表した。病原性大腸菌O157H7が、かいわれ大根、牛レバーで発見された[日本では検出の確認はされていない]が、当局は一次感染源を特定できない - あるいは特定したくない - ようだった。気が進まないことの背景には、食肉加工作業者にたいする世間のいわれなき偏見を刺激したくないという配慮もあった。日本の新聞各紙も、屠畜場への言及を避け、アメリカのO157は食肉加工と関係しているという事実を報道しなかった。それが問題を混乱させた。

 日本の屠場に関するルポルタージュの例としては『ドキュメント 屠場』を参照。ちなみに、このルポルタージュの中では、機械作業よりも手作業の方がきれいに処理できるということが述べられていた。

 恐かった記述の一つ(189ページ)。

《タイム》誌は、加工チキンに関して、もと農務省の微生物学者をしていたジェラルド・キュスターのことばを引用している。「できあがった製品は、トイレのなかにつっこんでおいて食べるのと同じようなものだ。」これは誇張した表現に聞こえる。ところが、現実はもっとひどい。アリゾナ大学が最近行った調査によれば、便器のふちよりも台所のほうが大腸菌の数が多いという。《サイエンス・ニュース》に発表されたこの報告書では、こうしたひどい汚染は何に由来するのか、慎みぶかく隠しているが、合理的に説明しようとすれば、人びとが台所にもちこむ動物性食品のおまけとしてやってきた、としか考えられない。チキンをトイレで洗うことはないから、バスルームのほうがずっと清潔なのだ。

 その他、現代的な食環境が、かえって食品由来感染症の好適な環境を作り出したという議論の論拠がいろいろと示されている。たとえば、真空パックが嫌気性細菌のパラダイスになっているとか、食品の加工を扱う仕事が低賃金労働者のものになっているとか。もう少し整理されているといいんだが。

 個人的には、食生活を見直した方がいいかなと思った。こういう「警鐘を鳴らす本」のなかでも、インパクトの強さではかなりのものだった。

1998/10/3

TRCの該当ページへ

amazon.comの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ