笑われる日本人

『ニューヨーク・タイムズ』が描く不可思議な日本

Japan made in U.S.A.

ジパング / ジパング / 98/09/16

★★★

むしろ有害な本

 ニューヨーク在住の日本人を中心とするグループ「ジパング」が編集し、自主出版した本。『ニューヨーク・タイムズ』誌のいまの日本支局長であるニコラス・D・クリストフと、その私生活でのパートナーであるシェリル・ウーダンが書く記事が偏向しているということを主張する本。まあ、この二人だけではなく、一般論として、しかし高級紙としては特に『ニューヨーク・タイムズ』に掲載される日本に関する新聞記事が、日本に関するステレオタイプを報道している、という。

 その結果として、「日本に関するステレオタイプを報道する外国人記者」というステレオタイプを日本人読者に植えつける、というような本になっている。特にこの「ジパング」のスタッフらが書いている文章はものすごくレベルが低い。

 しかし皮肉なことに、インタビューは面白い。ワシントン・ポストのトム・リード(T.R. Reid)、コロンビア大学のキャロル・グラック(Carol Gluck)、ニューヨーク大学のハリー・ハルートゥニアン(Harry Harootunian)、よくわからないマット・ソーン(Matt Thorn)、ノースウェスタン大学のローラ・ハイン(ただしこれは執筆原稿)(Laura Hein)、シカゴ大学のノーマ・フィールド(Norma Field)らは、いずれも一級品である。一方、筑紫哲也、上野千鶴子、池田啓子、角田由紀子らの日本人はどうしようもない。

 特に気になったのは、この「ジパング」というグループに、フェミニズムの色が濃いことである。フェミニズム自体には別に問題はないけれども、「米国における日本報道」という問題を扱うときにフェミニズムの立場でアプローチしたらまずい。いや、アプローチしてもいいけど、その前に日本においてフェミニズムがどういう位置にあるかということをちゃんと検討しておかないとまずいでしょう。クリストフに対するインタビューは、まるでフェミニストのインタビュアーによる糾弾みたいになっているが(いや実際、私はこのインタビューを読んで、クリストフって偉いじゃんと思いましたよ)、同じ問題(レディース・コミックにおける性暴力の描写)に対するマット・ソーンのまっとうなアプローチとどういうずれが生じているか、この「ジパング」の人たちはちゃんと理解しているのだろうか? 私としては、フェミニズム本を書くなら別の本として書き、日本報道本にはその色を入れないようにするというのが一番だと思う。あと、上記のまっとうな外国人たちにもっとしゃべらせる。これらの外国人とクリストフの対談が実現したりしたら面白そうだ。

 「ジパング」のwebサイト。ただし、ほとんど内容がない。

 インタビューされているマット・ソーン氏のwebサイト。この人はかなり面白そう。博士論文を書いて本として出版してほしい。

1998/10/5

 この本で紹介されている、『ニューヨーク・タイムズ』誌の記事の多くが、何らかの基準に照らせば「公平でない」としても、日本のメディアに掲載されたら一つの意見としてありえるようなものである。つまり、これらの記事を批判するときには、著者が外国人であるということに依らずに、たとえばこれが日本人よって書かれたものであると想定してみて、記事で扱われていること自体を問題とする方が生産的である。

 たとえば、日本人女性の声が高いというのは、私もつねづね思っていることである。これに対して、30年前のメアリー・タイラー・ムーアの声が高かったと言い返しても意味がない(そもそも、彼女のホルモンの関係で声が低くなったという可能性はないのか!?)。日本でのマリリン・モンローの吹き替えは犯罪的であると思っている。しかし、これが他の日本人によって犯罪的だと思われている様子がないことが、「日本人女性の声が高い」ことの、またそれが受容されていることの証拠の1つだと思っている。

1998/10/6

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