遠い崖

アーネスト・サトウ日記抄1 - 旅立ち

萩原延壽 / 朝日新聞社 / 98/10/20

★★★★★

あらゆる点から見て素晴らしい本

 朝日新聞に1976年から連載されたアーネスト・サトウの日記に関する文章の91回目までが1980年に単行本として出版されたが、この本はその改装新版。それ以降は単行本が出ていなかったらしく、今回、最後まで単行本として出すことになったようだ。この辺の事情は同時に発行された第2巻に説明がある。

 帯によると、このシリーズは全14巻で、年4冊刊行、2001年に完結を予定しているとのこと。次回の配本は1999年3月である。

 この本はあらゆる点から見て素晴らしい本だ。この第1巻「旅立ち」では、著者が行った研究の周辺事情などを解説した「序章」(これがまたなかなか感動的)に続けて、サトウが日本にやってきて、生麦事件の賠償に関する幕府との交渉が終わり、薩摩藩との交渉のために鹿児島への遠征に出発するところまでを扱っている。この時点で、サトウはまだ下っ端なので表立った活動はしていない。

 諸々の事件の描写は、もっぱら日本にいた外国人たちの立場から行われており、日本側の事情は事実の裏づけに使われる程度であるが、これがかえって記述を簡潔かつ面白いものにしていると思う。特に生麦事件とその余波に対するイギリス、フランス、アメリカの立場の違いがそれぞれの国の外交文書をもとにわかりやすく解説されていて、非常に興味深い。何よりも、歴史家としての視点が、これ以外にないというぐらいフェアで適切だと思う。

 著者は1926年生まれ。必ずや最後の第14巻まで出版してほしい。

1998/10/19

 第二巻は『遠い崖 アーネスト・サトウ日記抄2 - 薩英戦争』である。

1998/10/23

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