ボイスレコーダー撃墜の証言

大韓航空機事件15年目の真実

小山厳 / 講談社 / 98/10/15

★★★

決定的な本といえるだろう

 著者はNHKの記者。大韓航空機撃墜事件のときに稚内通信部に勤務していたことから、この事件に深くかかわるようになったということ。『消えた遺体 - 大韓航空機事件の1000日』(講談社、三一書房)という著書があるらしい(未読)。

 この本は、おそらく、この事件の原因に関する決定的な結論を述べている本である。その意味では非常に重要なのだけれども、それ以外の部分がかなり乱雑な印象を与える記述なので、全体的にクレディビリティを落としているように見えるのが残念だ。

 この事件の概略を記しておこう。1983年9月1日、アンカレッジからソウルに向かう北太平洋上の定期航路を飛行していた大韓航空007便が、ソビエト領サハリン上空に領空侵犯し、ソ連空軍の戦闘機によって撃墜された。乗員・乗客は全員死亡した(と推定される)。この事件は、発生後のソ連とアメリカ、さらには日本の自衛隊の動きが不明瞭だったこともあって、「謎」があるとされ、さまざまな陰謀説を産み出してきた。特に一番大きな謎となったのが、この007便がなぜソ連への領空侵犯を行ったのかということである。これに関してこれまで提示されてきた仮説を、この本の著者は3つに分類している(19ページ)。

  1. INSの操作手順にかかわるインプット・ミス説。
  2. 「スパイ飛行説」と、これとセットになった「おとり説」。米軍が、ソ連軍の対応を見るために、民間航空機をおとりとして使って、領空に侵入させたとするもの。
  3. 米ソ戦闘機の交戦に巻き込まれた末に撃墜されたという説。最終的には米軍戦闘機によって撃墜されたとする説が、アメリカ国内では活字になっている、とのこと。

 著者の結論は、国連の機関であるICAO(International Civil Aviation Organization、国際民間航空機関)のレポートの引き写しであるといってよい。このレポートに関する報道がちゃんと行われていなかったという状況があるらしく、これをわかりやすく紹介するのはこの本が初めてだということ。これもまたなんか問題があるんじゃないかと思うが。で、要するに、パイロットのミスで、航路がずれているのに気づかなかった、という結論である。

 著者はICAO本部を訪れて、ソ連側から渡されたボイス・レコーダーの内容を実際に聴いている。ICAOのレポートはこれを含む、おそらく本物と思われる資料をもとに作成されたものなので、たぶん信頼が置ける。そういうわけで、この本を読んだ限りでは、この事件に関する決定的な結論が出たと考えていいように思う。要するにパイロットが時差ぼけなどの影響で不注意になったために、飛行機の航行モードをINSに切り替えるのを忘れたため、間違った方角に飛び続けた。ユーザー・インターフェイスが悪いということも重なって、途中で気づくことができなかった。一方、ソ連側は正体不明の航空機を要撃するときの標準的な警告手順を取らず、事実上、まったく警告なしでミサイルを発射した。

 こういった事情から、いろいろな方向に話を発展させることが可能かとは思うが、著者はいきなり「遺族の悲しみ」みたいな方向に行ってしまう。もったいない。ちゃんとした調査報道は柳田邦男にまかせておけばよい、というスタンスなんだろうか?

1998/10/23

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