野戦の指揮官 中坊公平

NHK「住専」プロジェクト / NHK出版 / 97/11/30

★★★

中坊公平には問題がないが、本として問題あり

 中坊公平という人物は、住宅金融専門会社の不良債権を回収するために設立された住宅金融債権管理機構の社長である。この人は弁護士で、森永砒素ミルク中毒事件、豊田商事事件、豊島の産業廃棄物事件などの原告側に立って活動をしてきた人で、こうやって並べてみると、将来、公害訴訟などの文脈で教科書に名が載るかもしれないぐらい重要な人物だという感じがする。

 で、住専問題についてのドキュメンタリー番組を製作したNHKのスタッフが、この人物そのものに関心を抱き、住専問題というよりも、この人物のこれまでの経歴に焦点を当てて取材をして書いたのが、この本である。

 しかし、この本には大きな問題がある。それは、この本がまともに書かれていない、ということだ。言葉で説明するのは難しいのだが、ノンフィクションのあり方として落第だというべきか。まあ、執筆者はテレビ番組の取材班であるから、ちゃんとしたものを期待するのは最初から諦めた方がいいという言い方もありうるだろう。しかし、何か根本的な、日本のジャーナリズムの根本的な欠陥が、ここには現れている感じがする。

 再び言うけれども、この問題を言葉で説明するのは難しい。でも、「書かれていることの裏付けが不明である」とか、「事態を総合的に捉えていない」などと言ってみようか。たとえば、この本では、中坊公平という人物が、豊田商事事件や住専事件で大蔵省ないし国税庁などと交渉をするという場面が描かれている。しかし、大蔵省とか国税庁などという書き方はよくない。というか、その交渉に関して、この取材班は大蔵省や国税庁からの裏付けをとっていないということが明らかに見てとれるし、それを日本全体の動きの中に位置付けるということをしていない。このためにどういう結果が生じるか。「御上の意図不明な動きのために翻弄されるが、頑張った中坊公平」という姿だけが強調されて、事態の究明はなされず、ひたすら一人のヒーローのエピソードの、ヒーローから見た光景の描写に終わるのだ。え〜、この本はそういう本(ヒーローのエピソードの描写)なんだと開き直るでしょう、きっと、この取材班は。でもそれじゃまずいし、だいたい、そのことによってこの本の、ひいては中坊公平という人に対する信頼感が損なわれるので、中坊氏がかわいそうである。実際、この本を読み終えて、私はこの中坊公平という人物に対していくばくかの疑念が生じるのを抑えることができなかった。要するに、事態をいかにも日本的なやり方で収拾するための当て馬なのではないか、ということだ。これではほんとうに可哀想だ。

 仮に住宅金融債権管理機構の社長としての評価がそのようなもの(当て馬)になったとしても、それがそうなった仕組みを、ジャーナリストははっきりと描く必要がある、という風に思った。

1998/4/3

 そろそろ新しい動きが見えてきた。1998年11月に、住宅金融債権管理機構の調査が引き金となって「人権派弁護士」が逮捕されるという事件が起こった。中坊氏が直接に手を下したのではないらしいが、これをきっかけに批判が表面化する可能性がある。宮崎学のwebサイトを参照。

1998/12/15

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