脳が言葉を取り戻すとき

失語症のカルテから

佐野洋子、加藤正弘 / 日本放送協会 / 98/11/25

★★★★★

具体的な症状と治療法を記している好著

 著者の佐野洋子は聴覚言語士、加藤正弘は神経内科とリハビリテーションを専門とする医者。

 失語症の症状と、現在使われているリハビリテーションの手法を、具体的な例に即して解説している。失語症というのは非常に興味深い病気ではあるが、それを興味深いと思っている学者としての部分と、実際に治療に携わっている人としての患者へのシンパシーが見事な調和を保っていて、読んでいて感動することが何度かあった。著者たちの本意ではないとは思うが、「難病ものドキュメンタリー」として、ジョセフ・ヘラーの(タイトルを忘れた)本以来の面白さだった。また「医者の手によるドキュメンタリー」としても、オリバー・サックスに匹敵するかも。どちらの人がそうなのか知らないが(佐野洋子氏の方か?)、文才があるのだろう。まあ題材の面白さがポイントになっている部分もかなりあると思うが、それをいえばジョセフ・ヘラーもオリバー・サックスもそうである。

 題材としての興味深さはもちろんなのだが、この本を読んで、失語症患者の書いた文章を無性に読みたくなってきた。この本には、患者が書いた文章があちこちに引用されており、病状が改善されてくるにつれて形が整ってくるあたりは『アルジャーノンに花束を』を地で行っているようなものなのだが、これらの文章はなにか表現しにくい魅力を備えている。

 ミステリ小説でのサイコパスの主観描写は非常に困難で、成功しているものをほとんど見た事がないが、失語症患者の主観描写は本質的に不可能だろう、か?

1998/12/28

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