市場の倫理 統治の倫理

Systems of Survival: A Dialogue on the Moral Foundation of Commerce and Politics

ジェイン・ジェイコブズ / 日本経済新聞社 / 98/07/24

★★★★★

驚くほどよく出来たダイアログ形式の本

 出版社勤めを引退した男が、その出版社から本を出したことのある何名かの人々を自宅に招集し、「市場と統治の倫理」という題材で何回かにわたって討論を行う、という話。

 ダイアログ形式で思索的な話題を扱うという試みは、最近では『哲学の最前線』(アメリカの現代哲学)、『ケンブリッジ・クインテット』(人口知能)、『無限論の教室』(無限論)などを読んだが、これらの中でこの本は図抜けて良くできている。単純なことだが、「すべての登場人物に何らかの役割を与える/不要な登場人物を作らない」、「無駄なエピソードを入れるときには、ウィットに富んだエピソードを考える」、「そもそもダイアログ形式で書くことの必然性を感じさせる」といった配慮があるのだ。

 最後の「必然性」に関連して。この本は、世の中の倫理を「市場」と「統治」の2種類に分け、これ以外に倫理の、ひいては人間の生きるあり方は存在しない、というかなり大胆な主張を行っている。これをダイアログ形式でなく、普通の形式で主張したら、相当いろいろと配慮しないとバカっぽく見えるに違いない。

 この本にあえてラベルを付けるとしたら、文化人類学的な知見をベースにした、構成主義でない(経験主義的な)倫理学の構築の試み、ということになるだろうか。この「構成主義でない」という点は、私にとっては結構新鮮で(というのは、このところずっと変なものばかり読んでいたから)、随所に引用されるさまざまな論拠も面白く、非常に楽しんで読めた。細かいところに疑問を感じないわけではないにせよ、何かすごい構築物を見せられたという感じだ。

1998/12/28

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