「家をつくる」ということ

後悔しない家づくりと家族関係の本

藤原智美 / プレジデント社 / 97/12/06

★★★

いま日本の「作家」が書くべきタイプの本

 家というものから、日本の社会の変遷をたどり、そこに「家族」というキーワードを入れて書かれている本。著者は芥川賞作家だそうです。知らなかったけど。

 さて、上の説明からわかるように、これは宮脇檀のフィールドとぴったり重なっていて、オリジナリティを出すのはきわめて難しそうだ。実際、この本の、宮脇氏が書いていなさそうな部分といえば、ミサワホームの『GENIUS 蔵のある家』というGマークのグランプリを受賞したプレハブ住宅を1つの軸にしているということぐらいだろうか。で、このこと自体はきわめて良いことである。というのも、建築家で"ない"人が、要するに潜在的消費者の立場しか取れない人が、プレハブ住宅について論じるというのはとても必要とされることで、いってみればパーソナル・コンピュータのユーザーがAptivaを手がかりとしてPCの世界を論じるというような意味合いを持っている。PCのライターがLisaを論じるとか、PC雑誌がパブ広告でAptivaを賛美するみたいな記事はいくらでもあるけれども、というわけである。

 本の内容については少し不満もある。ひとつあげれば、ハウス・メーカー側の視点と、本の中での(仮想的な?)議論の相手となる精神科医のスタンスが、当然のことながら分裂するわけだけれども、その2つがうまい具合に融合していないというか、一方がもう一方に対してどういうインパクトを与えるのかということがよくわからない。結局、まったく2つの立場が、あまりオーバーラップしない領域について、何かしら気のきいたことを言っている、という印象がある。実際、住宅という問題を考える上では、この2つの立場がどういう関係を持ちうるのか、特に副題にも入っている「家族関係」を考える上でどうぶつかりあい、どこらへんで落ち着くのかが非常に重要になるはずだ。

 が、それは措いといて。今回、この本を読んで改めて思ったのは、この著者の本を読んでないのでひどい言い方だとは思うが、芥川賞を受賞してしまうような小説を書く作家は、こういう本を書いていた方が社会のためになるのではないか、ということだ。実際、この本は一種の「調査報道」であり、いやそういう意味では取材相手がミサワホームに偏っているのが残念なのだけれども、業界から完全に自由である、ちゃんとした知性を持っている人が、あるフィールドの現実について調査をして、それを広いコンテキストで捉えなおして、いちおう読める文章で本を書いたという本が少なすぎるのだ。

1998/4/8

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